【母校トリビア】都会の香りではないニオイがする~慶應義塾湘南藤沢中高等部①(神奈川)

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湘南藤沢中高等部は、大学のキャンパスと隣接している=写真:二匹の魚 / PIXTA(ピクスタ)

卒業生が母校のユニークな側面を語るコラム第3回は、通称「SFC」こと、慶應義塾湘南藤沢中高等部について。

慶應といえばオシャレで都会的で、賢く…というイメージが先行するが、SFCでは”違う香り”もするのだとか。

授業では、半年をかけて映画を見て考察するユニークな内容も。

意外なSFC(中高等部)の素顔とは?

 

 

 

開校28年~ダイバーシティの学校

慶應義塾湘南藤沢中高等部は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの中に位置し、「Shonan Fujisawa Campus」 の頭文字をとって、通称SFC(中高等部)と呼ばれる。

慶應義塾では、唯一の中高一貫校。開校28年と歴史は浅く、いわゆる慶應の主流ではない。

慶應の中では”田舎者”というレッテルを張られることもあるが、その実態は「ダイバーシティ」の学校だった。

 

都会の香り…ではなく年中ブタのにおい

  「慶應」という名には都会の香りがする、と言われる。

慶應、慶應女子、慶応志木、SFCと高校は国内に4校存在するが、SFCは異端。慶應内部において“田舎者”というイメージはあながち間違ってはいない。

SFCは相鉄いずみ野線・横浜市営地下鉄ブルーラインの終点・湘南台駅からさらに20分ほどバスに乗ったところに位置する。都心からは1時間半近くかかる。

 

極め付きは、ブタのにおいである。近くに養豚場があるためか、SFCでは年中ブタのにおいがする。入学当初は毎日「臭い、臭い」と言いながら顔をしかめていたが、だんだんと臭くなくなり、卒業するころには雨の日以外は気にならなくなる。おそらく、鼻が慣れただけなのだろう。

そんなこんなで、他の慶應一貫校の生徒には、「SFCってすごい田舎なんでしょ」とよく言われる。

 

休み時間には英語でおしゃべり

 

校内は、さまざまなバックグラウンドを持った人の集まりだ。

SFCは高校入試を行っており、高校からクラス数が4から6に増える。高校からの入学者を「外部生」、中学からの持ちあがりを「内部生」と呼ぶが、外部生の約6割は帰国生だ。日本の学校に通うこと自体が初めてという人も少なくなく、昼休みには当たり前のように英語で会話が行われる。マジョリティであるはずの内部生は、その勢いに気圧されてしまうことも。

また、外部生の残り4割は、全国枠での入学者となる。

北海道から九州まで全国各地から生徒が集まってくるため、英語に混ざって方言の訛りも聞こえてくるようになる。こうしてSFCは多様性の象徴のような学校に変貌するのだ。

 

半年かけてトトロを見る

強烈な個性を放つ教師が多くいた。

現在は転任してしまったが、ある国語教諭の授業は、半年かけてスタジオジブリの映画を1本見て分析するというものだった。

中1は「となりのトトロ」、高3は「千と千尋の神隠し」を半年かけて見る。筆者は、中1時に「となりのトトロ」の授業を受けた。

 

ただ鑑賞するだけではない。10秒に1回のペースで映像は一時停止され、そこに映っているものや、登場人物の言動を分析する。

例えば、この橋は現実と神様の世界の境界を表している、メイがくしゃみをした理由はクスノキを見て魂が震えたからだとか、この花はタチアオイで「出会い」を暗示しているだとか。

はじめは、ちゃんと映画を見させてくれよ、と不満を覚えたものだ。

 

授業では、映画のコマが大量に印刷されたプリントが次々と配布される。生徒はコマを切り抜き、ノートに張り付け、横に解説を加えるなどして、それぞれ思い思いの「トトロノート」を作っていく。筆者の「トトロノート」には139枚のコマの切り抜きが貼ってあった。

 

定期試験の問題。

「主題歌『さんぽ』の歌詞、「歩こう」の「う」は推量か、意志か、勧誘かを考えて解釈しなさい」

「サツキとメイが家の中を見て回る時の行動や台詞の呪術的意味を解説しなさい」

 

ジブリ先生だけではない。SFCの先生は中高の先生というより、大学の教授のような人が多い。専門分野にだけ特化した授業を行いがちなのだ。

ある歴史の先生は、明治維新と太平洋戦争しか扱わず、ほかにイスラム教・仏教・キリスト教について何時間も費やして教える教師も存在した。

 

 

ひたすら新聞記事を読み、見出しを当てるだけの国語の授業もあった。

班ごとに協力して見出しを考えるのだが、これがなかなか当たらない。正解しなければ次の記事に進めないため、他の班が次々と正解すると焦る。いつの間にか班対抗戦の様相を呈し、大いに盛り上がった。

ちなみに、その後行われた定期試験の問題は全て「記事に最適な見出しを選びなさい」。

 

また、教師の呼び方も少し変わっている。

これは慶應全体に共通する特徴かもしれないが、SFC生は教師の事を「先生」と呼ばない。基本的には「さん」付けで、「ジョン」とか「ロン」とかあだ名で呼ばれている教師もいた。両者ともれっきとした日本人である。 

 

ハロウィーンはコスプレ大会

生徒ものびのびとしている。

SFCで象徴的な行事といえば、ハロウィーン。

学校行事が行われるわけではない。生徒が勝手に仮装をし、当日の学校はコスプレ大会と化すのだ。 

学年が上がるほど、教師も寛大になり、コスプレの本気度が上がる。

顔の半分に骸骨を模したメイクを施し、真っ白なワンピースを着ていたり、ピンクのカツラをかぶって漫画のキャラクターになりきっていたりと、もうなんでもありだ。 

 

SFCは、校則をはじめとした縛りが少なく“自由”。だからこそ、それぞれが自分のやりたいことを極められる。

早々に自分の道を見つけ、夢に向けて歩き出している生徒も多い。 

教師のこだわりの詰まった唯一無二の授業、多種多様なビジョンを持つ生徒。SFCには、「自分が何をしたいのか」をみつけるヒントが詰まっている。

(ひが あゆみ)

 

 

 

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