【連載「生きる理由」65】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「柔道がうまくなる・強くなる話」⑤~覚悟の決め方

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内柴正人氏(左)と練習パートナーでもある〝学生弟子〟(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「柔道がうまくなる・強くなるための話」⑤。

どうしたら強くなることができるのか。
努力で金メダルを獲得したといわれる内柴氏が、強くなるための「心技体」の整え方についてつづる。

前回までは量から質を生み出す重要性、心構えについて解説した。
第5回は「覚悟の決め方」について。

 

 

 

 

自分でやらなきゃいけない自由

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階段トレーニングは現役時代のルーティーン(写真:本人提供)

人は比べる生き物で、人との差があり過ぎたらやる気がなくなる。
差が小さいのなら、追い越す楽しさがあります。

技術の部分では、自分が今できない技術の中に「これができない限り勝てない」という答えがある。
トレーニングとはフィジカルの強化だから、そこも目安がある。

とすれば、
強制的にやらされる中での自由と、
自分でやらなきゃならない自由。
どちらの自由を選ぶのか。

チームの練習で手を抜けない状況で、世界一になりきる練習を一日の中でどこでするか。

そんな話を今の弟子たちには全部伝えています。
そして、「勝手にやれ」とも言っています。

 

ありとあらゆる練習をやり尽くした

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燃料代が高騰する中、マネジャーを務める温浴施設では節約しながら運営中。スーパー銭湯なみの広さ(写真:本人提供)

ここはつるの湯八代店、風呂屋です。
道場はボロ畳を敷いて、自分が柔術、グラップリングをするための場所。

ここに柔道を習いに来ている子が何人いるっけな。
技術は全部教える。トレーニングもある程度教える。
柔道場ではない。でも、柔道の話はする。柔道してるから。

柔道の先生でもない今、
失敗した柔道人生において、柔道の脳みそ部分の話をするのは恥ずかしいね。

恥ずかしいけれど、僕が世界一、柔道に詳しい。
弱かった小学生が世界チャンピオンになった。それは、ありとあらゆる練習を自分で自分に課して、一見無駄に思われるようなこともやり尽くしてきたから。

そして、柔道を職業にしなくても飯が食えているから、立派だよねえ。
僕は風呂屋だ!

 

頑張り方は教える 頑張るのは本人

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柔道の練習をする時も、柔術で授与された茶帯を使用している(写真:本人提供)

学生弟子にはこう言っています。
「勝手に頑張れない選手は弟子ではない。知らんがな。でも、来てくれてありがとう」

僕の昔話で言えば、(大学の)多摩校舎の裏山で畑仕事しているオジサンが、僕の走りを何年も見ていました。誰とは知らずに。

ある時、声をかけられました。
「君は柔道選手だったんだね」
ぬるい缶コーヒーを減量中にもらいました。

そういうことなんです。

柔道の小難しい、恥ずかしい話を書いてしまいました。
考えに考えてやっとこさ勝ってきたから、普通に強い人にはいらない話なんです。

 

選手とコーチの会話が成立するには

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相手の襟と袖を持たずに行う打ち込み。身をひるがえした後に自分の腰で相手を持ち上げる感覚(写真:本人提供)

つまりは、当たり前に自分でやれる選手がいて、昔で言えば斉藤仁先生が声をかけてくれる。厳しくしてくれる。
今で言うと(鈴木)桂治が声を掛けてくれる。

そうするとコーチと選手の会話が成立する。

選手は世界の頂点を目指すなら、意識レベルがコーチを超えていて、さらに素直さがあること。そうでないと、コーチはその選手に対して技術的にアドバイスできない。

逆にコーチは、子どもに技術を正しく理解させることができたら、指導者としてすごいということです。

 

(内柴 正人=この項おわり)

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信開始

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に週1回開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

 

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

MasatoUchishiba

 

 

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