【格闘技】QUINTET後楽園ホール大会=五輪連覇の内柴正人が国内プロ格闘技デビューで引き分け

 

内柴正人 小見川道大

「TEAM WOLF」=左からグラント・ボグダノフ、内柴、伊藤盛一郎、柔道時代の先輩・小見川道大、森戸新士(撮影:丸井 乙生)

IQレスラー・桜庭和志がプロデュースする格闘技イベント「コロブロックpresents  QUINTET FN5 in TOKYO」が27日、東京・後楽園ホールで行われ、04年アテネ、08年北京五輪連覇の内柴正人(42)が国内開催のプロ格闘技戦デビューを果たした。

打撃なしのグラップリング(関節、絞め、投げなど組み技のみ有効)ルールで、5対5の勝ち抜き戦。トーナメント1回戦の「TEAM CARPE DIEM」ー「TEAM WOLF」で「WOLF」の次鋒で出場した。相手次鋒・世羅智茂(31)の寝技地獄に苦戦して引き分けて脱落。チームは大将戦の判定に持ち込まれたが、前大会までV3を飾っていた強豪チームに敗れ去った。

現在は、故郷の熊本県内で温浴施設マネジャーの仕事を得ており、今回の出場について大会運営、チーム、そして対戦チームに感謝。今後は仕事に集中しながら、精神修養として柔術の練習を重ねる。

 

  

 

”小見川トレイン”で入場

内柴正人 QUINTET

ライトに照らされて入場した「TEAM WOLF」、中央が内柴(撮影:丸井 乙生)

紫色のカクテル光線を浴びながら、内柴は柔道時代の先輩・小見川道大の肩に手を置いて”小見川トレイン”で入場した。大規模な国内大会に選手として出場したのは、2010年4月の柔道全日本選抜体重別選手権以来約10年ぶり。イベント最初の1回戦、次鋒として名前をコールされると、拍手で出迎えられた。

 

 

「まずは、この大会に感謝しています。呼んでくれた小見川先輩にも、僕をメンバーとして戦ってくれたみんなにも感謝しています。こんな世界があるとは、10年前には知らなかった。(柔術に)誘ってくれたアラバンカの山田さんに感謝しています」

 

試合開始直前はコート内でまず1回受身を取り、次はマットを強く踏みしめながら大きくジャンプ。柔道時代をほうふつとさせるルーティーンを経て、国内開催のプロ格闘技初戦に臨んだ。 

 

ブラジリアン柔術の強豪に苦戦

内柴正人

寝技のスペシャリストを攻めあぐねる内柴(左=撮影:丸井 乙生)

 

柔術ならではの寝技地獄を攻めあぐねた。相手の世羅はブラジリアン柔術の強豪で、17年にはIBJJFアジア選手権の黒帯フェザー級準優勝を飾っている。

内柴が立ち、世羅がマットに座った状態で互いの出方を探る「猪木ーアリ状態」の場面も。スペシャリストの足関節技は免れたが、17、18年に柔術大会に出場した際は何度も勝利を得た腕十字固めには持ち込めず、時間切れで引き分け。ルールにより、双方が脱落して中堅以降に勝負を託した。 

 

17年秋に柔術開始→キルギス柔道監督→故郷へ

 

2017年10月の内柴正人

2017年10月当時、柔術を始めたばかりの内柴(撮影:丸井 乙生)

17年秋、アラバンカ柔術アカデミーの山田重孝氏の誘いで柔術を始めた。

11年末に当時指導していた大学の教え子に対する準強姦容疑で逮捕され、合意の上だったとして上告したが、最高裁に棄却されて14年に懲役5年の実刑判決が確定した。17年9月に出所し、拘禁症による幻覚、幻聴に悩まされる中で生きるすべを模索していた。

 

同年11月のアマチュア柔術大会「ASJJF DUMAN JAPAN OPEN」でマスターのミドル級、無差別級で初出場V。18年2月の全日本マスターは青帯36~40歳のライト級(道衣込み76kg以下)クラスと、無差別級で優勝した。同年4月の「アブダビ・ワールドプロ」(UAE・アブダビ)ではマスター2青帯77kg以下級に出場し、優勝を経て上級の紫帯を取得していた。

 

 

柔術の道を歩み始めた矢先、キルギス共和国柔道連盟からのオファーで18年7月、連盟総監督に就任した。既に同年再婚していた女性と共に海を渡り、現地で荒削りの選手たちへ指導を行った。19年夏の柔道世界選手権には総監督として来日し、柔道時代の仲間と顔を合わせ「会いたい人には会うことができました」と話していた。

 

20年からは故郷である熊本県へ戻り、八代市内の銭湯「つる乃湯」にマネジャーとして勤務した。今回は、柔道時代から親交のある小見川の誘いを受けて出場を決意。風呂や部屋の掃除、設備の修理など”何でも屋”として仕事をこなしながら練習する姿に、周囲からは柔術の練習相手を買ってくれる人がいたり、柔道指導のオファーがあったりと、支えを得られるようになった。

 

自分のためには頑張れない

内柴正人 QUINTET

試合後に悔しそうな表情を浮かべる内柴(撮影:丸井 乙生)

競技は違えど、約10年ぶりの国内大会参戦。初めてグラップリングの大会に臨むことも、人前に出ることも怖かった。

「僕は自分のためには頑張れない。誰かのためなら、家族のためなら頑張ることができます」

再婚した今の家庭のほか、会えなくなった子どもたちに思いを馳せている。試合後、Twitterにこう綴った。

 

 

 

  

 

努力をし続けること

QUINTET TEAMWOLF

試合中の内柴に声をかける「TEAM WOLF」。柔道時代の先輩・小見川は左から3人目(撮影:丸井 乙生)

今回の参戦に賛否両論の声はあった。

柔道時代にともに切磋琢磨し、海外遠征では同部屋で過ごした小見川は、試合前のVTRで「昔から彼を知っている。それがすべて」と話した。試合後の会見では、「最後に一言」と断りを入れて口を開いた。

「試合をやって気づいたことがあります。人生は1回きり。その1回を悔いなく生きることが大事。次までにどうすれば大きく、たくましく強くなれるのか。みんな、ありがとう。みんなからそう学んだと思います」

 

内柴は今後、勤務先にとんぼ返りして再び銭湯のマネジャー業に没頭する。

「僕にはオリンピックチャンピオンという良い名と、悪名の2つがある。僕にできることは、努力をし続けること。まずは仕事に帰ります。(次戦は)まず仕事でいっぱしになってから。社長に(試合へ)送り出してもらえるように」と話していた。

 

 

(丸井 乙生)

 

 

mimi-yori.com

 

 

〇…大会決勝は、所英男率いる「TEAM TOKORO PLUS α 2nd」が強豪「TEAM CARPE DIEM」の4連覇を阻んだ。先鋒・金原は時間切れドローで脱落し、次鋒は小谷が世羅に三角絞め。小谷は続く白木との一戦で引き分け、そして自軍の中堅・中村も引き分けて脱落した。ここで登場した副将・今成は相手大将・橋本戦を引き分けに持ち込み、優勝を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、選手たちは試合直前も顔を含め全身を消毒、観客はソーシャルディスタンスを踏まえて観客席が指定され、マスク着用で観戦。前列の記者席ではフェイスシールドも配布された。

 

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