海の男を束ねる女性がいる。
山口県萩市の沖合に浮かぶ大島、通称「萩大島」。
坪内知佳さん(株式会社GHIBLI代表)はその漁師たちを束ね、漁業の復興に取り組んできた。
2011年から3船団からなる「萩大島船団丸」の代表に就任し、船から飲食店へ直送する鮮魚セット「粋粋BOX」のプロジェクトを開始。6次産業化事業を形にして、離島の命とも言うべき、漁業を一大ビジネスに押し上げた。
新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中、直送ビジネスで奮闘する坪内さんの歩みをひもといた。
第2回は、プロジェクト開始当初は漁師たちと激闘を繰り広げたエピソードをご紹介。
仕事が増えた漁師たちから反発
漁師が船上で下処理し、獲れたての魚を直送する「鮮魚BOX(現・粋粋BOX)」プロジェクトがスタートした。地元の魚のブランド化にはうってつけのアイデア。しかし、始めた当初は苦戦の連続で、何よりも坪内と漁師との激闘があった。
従来であれば、漁師は魚を獲れば仕事は終わり。
しかし、「鮮魚BOX(現・粋粋BOX)」のために漁の後も作業をしなければならない。当初は、仕事が増えた漁師から不満が続出した。
激闘例①:網引き拒否問題
就任直後のことだった、船上で幅600メートル、長さ250メートルの巨大な網を引く際に重要なポジションを担当する3人が同時に辞めると言い出した。“操業停止に追い込んでやろう”という意図によるものだった。
そんなこともあろうかと、隣の島根県から経験者を招集する準備をしており、それで乗り切った。
激闘例②:氷のう問題
「鮮魚BOX(現・粋粋BOX)」は、漁師が自分で箱詰めし、顧客ごとに直接出荷する。鮮度を保つために箱には氷を入れるが、直接氷を入れると魚が水っぽくなってしまうことから、坪内は氷を袋に入れるよう指示した。
しかし、漁師たちは「顧客の要望を聞くことはプライドにかかわる」として改善しようとしなかった。
携帯電話5台で千手観音状態
顧客とのやり取りは当初、すべて坪内が一手に引き受けていた。
一方、箱詰めは漁師たちが慣れない作業に不満を持ちながら行う。その結果、出荷した数だけクレームが返ってきて、電話は鳴りっぱなしだった。
携帯電話を5台持ち、すべてにキャッチホンを設定。ほかにもタブレット、FAXを駆使して「1人移動事務所状態」を続けた。
顧客開拓をしつつ、従業員を叱りながら進む毎日だったという。
それでも、箱詰めする漁師は「何でこんなことを自分たちがしなきゃいけないんだ!」と不満を募らせていった。
「出て行け」と言われ…本当に出て行った
「あんたらのプライドって、一体、何やの⁉」
顧客満足は魚の質だけでなく「どう届くか」も含めたトータルで生まれるものだと伝えたかった。
争いの末、漁師たちから「出て行ってくれ」と言われたため、A4の紙に顧客の連絡先をすべて殴り書きし、坪内は本当に出て行った。
(つづく=丸井 乙生)
◆クラウドファンディング実施中
萩大島船団丸が北海道・千葉・高知・鹿児島の船団丸仲間とともに、コロナ禍を乗り切るべく協力するプロジェクトをクラウドファンディングで実施中。おうちごはんが増える中で、獲れたての魚介類を家庭でも食べやすいよう処理・加工してお届け。船団丸の魚を熟知したプロによる特別考案レシピも付いてくる。締切間近!
◆「粋粋BOX」はこちら
※これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラムです。
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