【経営哲学】開発の着想を得た「盛大なるおもらし事件」とは? 「Triple W Japan」代表取締役 中西敦士氏②

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中西氏はおもらし事件当時、チェック柄のステテコを履いていたという(写真はイメージ)

人生100年時代、介護業界の人手不足が深刻化しているというが、いまだ多くの人がそれを他人事に感じているだろう。そんな人に知ってほしい。

一般的な介護施設において、介護職員は8時間の勤務時間のうち約3時間を排泄介助に当てているということを。

 

そんな介護職員の負担を減らす救世主が現れた。

排泄予知デバイス、その名も「D Free」だ。

D Freeとは、超音波センサーによって膀胱の変化を捉え、排泄のタイミングを予測し、スマホやタブレットに知らせてくれるというIoTウェアラブルデバイスだ。

開発したのは、ベンチャー企業「トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社」代表取締役・中西敦士氏だ。

彼の“失禁”の過去が、オムツ(DIAPER)から自由になる世界を創る!

 

第2回はその核心、「おもらし事件」について。

 

 

フィリピンでモノづくりに目覚め シリコンバレーへ

1983年、兵庫県明石市で生まれた中西は、幼少時から起業を志していた。

祖父が建材業を営む実業家だったこともあり、小1の頃には「社長になる」と周囲に話していた。

しかし、本当に25年後に夢をかなえるとは、まだ神のみぞ知る段階だった。

 

大学卒業後は、事業を起こすための勉強過程としてコンサルティング会社に勤務していたが、青年海外協力隊としてフィリピンに2年間滞在した経験が運命を変えた。

 

モノづくりの経験がほとんどない中、現地でマニラ麻からジーンズを作ろうとしたことがある。

完成したのは、スケスケのジーンズ。

マニラ麻の繊維は硬く、キメの細かなジーンズにはなり得なかった。モノづくりの難しさを痛感すると同時に、思っていたものが出来上がると面白いなと実感した出来事でもあった。

また、フィリピンでは貧しい地域の住民がiPhoneを欲しがる姿を見たのをきっかけに、13年シリコンバレーに渡り、「UCバークレー校」でビジネスを学ぶことにした。

 

ここまで、モノづくりには目覚めたが、まだ漏らしてはいない。

 

引っ越し中の悲劇‼ 街中で堤防決壊

13年9月、社長への道を順調に歩いていたかに見えた29歳の青年に事件は起きた。

率直に言おう、バークレーの街中で盛大にうんこを漏らしたのだ。

 

その日は、ホームステイ先へ引っ越すため、徒歩30分かけて荷物を運ぼうとしていた。

10分ほど歩いたところで突然、最大級の便意を感じた。

人目につく通りで物陰もなく、日本のようにトイレを貸してくれるコンビニもない。

余力を振り絞って10分ほど耐え抜いて前に進んだが、ついに堤防は決壊した。

 

「一瞬、頭が真っ白になりました」

 

便意が来た時点で元の自宅に戻っていれば…と思うも、後の祭り。

このまま進んで新居に行ったところで、ホームステイ先の家主はおそらく家には入れてくれないだろう。とりあえず戻り、近所の友人にズボンを借りて出直した。

 

原因は引っ越し前夜ならではの事情にあった。冷蔵庫を空にするために、夕食の鍋には残り物をすべて投入した。キムチも唐辛子も。

激辛鍋でお酒も進み、お腹が緩くなる条件が出そろっていた。

 

うん〇が運をもたらした!

しかし、この経験が、世紀の発明を生み出した。

運の悪い出来事に深く傷ついた中西は、「また漏らすかも」という恐怖でしばらく外出できなくなったという。

その時に感じたのは、粗相は人間の尊厳の問題だということ。

せめて家を出る前に、便意が来ることを知ることができていれば…

 

ちょうどその頃、日本では大人用オムツの売り上げが子供用オムツを上回るというニュースが注目されていた。

そういえば…

中西の祖母は人工肛門をつけていたが、排便に失敗したショックで外出を控えるようになったことを思い出した。祖母の世話をしていたのは中西の母だった。

 

介護疲れによる殺人事件や自殺も徐々に増え、その記事を読んでいるだけで泣きそうになった。

「世の中には大人になっても、うんこに苦しめられる人が大勢いる。ならば、世の中からうんこなんてなくなればいいのに!」

ひょんなことから社会的な課題である排泄の悩みに注目し、それをテーマに起業することを決めたのだ。

「運が良かったんです」

 

 (つづく=五島由紀子 mimiyori編集部)

 

※これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラムです。

新型コロナウイルス感染拡大による影響と闘う各業界の方々へエールを。

 

 

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