【ビジネス】荒くれ漁師軍団を束ねる たおやかなアネゴ 株式会社GHIBLI坪内知佳④なぜ成し遂げられたのか

萩大島船団丸

萩大島船団丸はコロナ禍の今も奮闘している(写真:株式会社GHIBLI提供)

海の男を束ねる女性がいる。

山口県萩市の沖合に浮かぶ大島、通称「萩大島」。

坪内知佳さん(株式会社GHIBLI代表)はその漁師たちを束ね、漁業の復興に取り組んできた。

2011年から3船団からなる「萩大島船団丸」の代表に就任し、船から飲食店へ直送する鮮魚セット「粋粋BOX」のプロジェクトを開始。6次産業化事業を形にして、離島の命とも言うべき、漁業を一大ビジネスに押し上げた。

新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中、直送ビジネスで奮闘する坪内さんの歩みをひもといた。

最終回の第4回は、漁師たちが自発的に取り組み始めた「海の将来」について。

 

 

 

 

 

子どもの故郷をなくしたくなかった

 

坪内知佳

坪内知佳さんは自ら作業も行う(写真:株式会社GHIBLI提供)

なぜ、坪内はそこまで漁業にのめり込むことができたのか。

 

「うちの子が50歳くらいになった時に“俺の故郷、もうないんだよね”ってなったら、どうなのかなって思ったんです。消滅しそうな可能性があるなら、そこを守るのが産んだ親の責任でもあるのかな、って」

 

萩市、そして隣接の長門市は「消滅可能性都市(2014年に日本創成会議が打ち出した、少子化や人口移動で将来消滅の可能性がある自治体)」として名前が挙がったことがある。

萩市の産業は水産の比重が重く、萩大島船団丸は所属漁協の水揚げを約6~7割を占めていた。つまり、萩大島船団丸が島の命運にかかわっているといっても過言ではない。

 

「こんなに素晴らしい景色なのに。何とか地域を元気にできないかな。困っている人たちを目の当たりにして、何かしたいという気持ちが高まっていきました。漁業者が“鯵と鯖だけでこんなに生き返ったよ”と言える状況になって、県外から若者がたくさん移り住んできて…ってなったら、素晴らしいモデルになれるんじゃないか」

 

”萩大島船団丸方式”は全国に

萩大島

萩大島、獲れたての魚は目がキラキラ(写真:株式会社GHIBLI提供)

 

 

 

近年は、故郷・萩市以外の漁業経営にも携わる。「萩大島船団丸方式」に注目する全国の船団と協力し、北海道、千葉県、高知県、鹿児島県などにも輪は広がっている。彼らへのレクチャーには坪内だけでなく、長岡船団長や従業員も加わるようになった。

 

「魚をどんな箱に、どうやって入れて、どのくらい送ればいいのか?」

「営業の電話って、どうやってかけたらいいの?」

顧客ゼロ、販路ゼロ、そして知名度ゼロから新しい“船団丸”がまた生まれる。

 

新しい産地の新メンバーがテスト出荷を重ねるたびに、坪内、長岡から厳しいチェックが行われる。すると「え⁉ そんなこと知らなかった…そこまでこだわらなきゃいけないの? やっぱり辞めたい…」が繰り返される。

 

長岡秀洋

漁師としてのプライドと、坪内さんの顧客ファーストの指針が融合。長岡船団長(右端)もやりがいを持って臨んでいる(写真:株式会社GHIBLI提供)

時には、長岡が自分たちの失敗談を振り返り、諭す。

「辞めたいと何度も思った。でも、坪内に10年ついてきて、今では迷いなく、やってきて良かった!と言える」

 

立ち上げ当初は坪内とぶつかり、「出て行け」と言ったこともある。それでも、漁師たちの将来、萩大島の将来を考える若き女性の本気は心にしみわたり、ともに歩んできた。漁師ひとすじ40年の大ベテランも、日本の未来を考えるようになった。

 

5船団丸は毎日のようにオンラインでやり取りをし、遠隔地でも強くつながり、励ましあいながら成長している。

 

自分が一番大きな風呂敷を広げる

 

 

 

坪内の経営者像とはどのようなものなのか。

 

朝の4、5時でも、従業員からは「網が破れた!」などの電話がかかってくる。網1枚は5000万円もする高価な道具であるため、「で?」「縫えばいいじゃない?」とは返せない。下手したら廃業になってしまう危険なことだからだ。

 

「大丈夫、どうにかするよ。私が直せばいいんでしょう?」のようなニュアンスで返答すると、「あっ、なんか大丈夫な気がする」と相手が落ち着く。

 

「自分が一番大きな大風呂敷を広げてやる。ビジョンとか目線を広く持って、従業員もなるべく広く、広く、引っ張ってあげる」

 

坪内知佳

坪内知佳さんは幼少時代、カモメになりたいと思っていた(写真:株式会社GHIBLI提供)

入社してきた若者の中には問題児もいたが、そういう若者ほど一級の魚、一級のサービスを提供するというプライドを持って、「母親が産んでくれて良かった。俺、生き直します」と成長していく。

「落ちこぼれ扱いされてた子が、役割を得て人をまとめたりするわけですよ。それなりに意地があるから頑張るし、やっぱイキイキします。そういう成長って本当にほほえましいですし、見ていて気持ちがいいです」

 

幼少時は「カモメになりたい」と思っていた少女は今、漁師たちの水先案内人となって日本全国の海を飛び回っている。 

   (おわり=丸井 乙生)

 

 

 

 

◆クラウドファンディング実施中

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camp-fire.jp

 

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商品一覧 | 【公式】萩大島船団丸

 

つぼうち・ちか

1986年6月17日、福井県出身。福井商ー名古屋外国語大中退。

翻訳・コンサルティング事務所を立ち上、未経験の漁業と出合い、2011年に任意団体としての「萩大島船団丸」の発足を手掛ける。2012年代表就任。

2014年、事業の拡大に向け、株式会社GHIBLI(ギブリ)を設立。アフリカのサハラ砂漠に吹く熱風「ギブリ」の名に由来。

現在は全国の漁業6次産業化のコンサルタントも手掛ける。

日経Woman of the year2014キャリアクリエイティブ賞を受賞。

日経ビジネス2016年12月19日号の特集「次代を創る100人」でその1人に選出された。

著書に「荒くれ漁師を束ねる力」(朝日新聞出版)。

 

※これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラムです。

新型コロナウイルス感染拡大による影響と闘う各業界の方々へエールを。

 

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