これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラム。
卑下していた社員は有能だった
我が道を突っ走っていた南原の人生は2005年に暗転する。大口の取引先だった英MGローバーが破たん。いよいよ上場へと準備を進めていた矢先だったが、連鎖倒産のような状態になった。「マネーの虎」の終了からわずか1年で、100億円の損失を出してしまった。
会社の資産は約45億円あり、シミュレーション上ではしのげるはずだったが、13行合計約30億円を借り入れていた金融機関は、融資を引き揚げにかかった。「全社員を路頭に迷わせてしまう」という恐怖にさいなまれた南原は、自社ビル、輸入済みの車などの資産を売却。必死に会社の再建を図ろうとするもうまくいかず、苦渋の決断で社員263人全員を解雇した。ところが、南原が案ずるまでもなく、ほとんどの社員は他社に再就職。自分が無能と思っていた社員は「みんな有能だった」。
六本木ヒルズでホームレス
社員の能力に気づいた時は遅く、自身はホームレスになった。当時45歳の南原は、ネットオークションで会社の備品を売って日銭を稼ぎ、1日1個の菓子パンで乗り切るような奈落に転落した。もともと貯金も数十万円しかなく、その個人資産も会社の返済にすべて当てた。ATMに残っていた全額5万6800円を引き出し、それがなくなったら一文無しという状況だった。
借金は無事、期日内に完済したものの、会社も家も失った。自身が以前住んでいた六本木ヒルズ内の公園で寝ていたところ、「ここは私有地だ!」と警備員に追い出されたこともある。その後、麻布十番のバス停までトボトボと歩いたことが今でも脳裏に浮かぶ。寝床を探し歩くうち、高速道路の下のほうが、静かで雨や風もしのげて快適だと知った。
一時は、元ライブドア取締役の榎本大輔氏に世田谷区深沢の豪邸を貸与してもらった。家賃は無料、光熱費のみでいいとのことだったが、豪邸ゆえにその光熱費が高額だった。仕方なく、調布市の“ボロアパート”に住むことに。家賃は5万円。資材置き場裏の奥まったところに建っており、すき間風が入った上に、冬は起床時に息が白くなるほど寒かった。毎日どこかの部屋にサラ金の取り立て屋が来るなど、訳ありの住民が多かった。
バス運転手の求人に応募
借金の返済中、バスの運転手の求人に応募したこともある。しかし、年齢が問題となり、非採用だった。ヘッドハンティング会社を介して企業に電話をしても「お前が来たら、お前が部長になっちゃうだろ?」「会社を乗っ取る気じゃないか?」などと片っ端から断られた。その後も求人誌を見て応募し続けたが、すべて断られた。
きつかった半面、精神力は鍛えられた。短い期間だが、ギュッと圧縮されるような心のありようを経験したことで、物事に動じなくなった。その分、他人に対する許容範囲も広くなり、勝負に出るときの度胸も決断力もついたという。はたから見たら「どん底」生活だが、自身は意外にも鈍感だった。
「喪失感もあったと思うけれど、あまり記憶に残っていません。まあ、仕方ないよね、というぐらいの話だし、会社が破たんする前から、極端に華美な生活はしていませんでした」
牛丼がごちそう
金持ちになると牛丼チェーン店に行かない人もいるが、南原は今でも平気で行ける。牛丼に卵を1個プラスして「今日は贅沢だなあ」と思いながら食べているという。
(③につづく=mimiyori編集部)