【経営哲学】相模屋食料 鳥越淳司社長 妄想の中に未来がある①あのザクとうふも妄想から生まれた

f:id:mimiyori_media:20200825105631j:plain

(写真:photoAC/HiC)※写真はイメージ 

これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラム。

 

まったくの“豆腐素人”だった娘婿が、日本最大の豆腐メーカーを築き上げた。

『ザクとうふ』や『焼いておいしい絹厚揚げ』などで知られる豆腐製造会社「相模屋食料株式会社」の鳥越淳司社長は、元サラリーマン。02年に妻の父親が社長を務めていた同社に入社し、07年に社長に就任した。

以来、数々のヒット商品を生み出し、豆腐業界初の売上高100億円を達成。『マスカルポーネのようなナチュラルとうふ』が経済産業大臣賞を受賞するなど、妄想癖を武器に次々と斬新な商品を開発するアイデア性と経営手腕が注目されている。 

 

趣味と妄想から生まれた『ザクとうふ』

2012年、機動戦士ガンダムの敵「モビルスーツ」をモチーフにした『ザクとうふ』を世に送り出した。
新商品に敏感に反応したのは主婦層ではなく、30~40代の男性。これまで豆腐に関心を示していなかった消費者層がスーパーの豆腐売り場に殺到する大ヒット商品となった。

決して社運をかけた商品ではなく、「好きが高じてです。完全に趣味ですね」と鳥越は笑う。
きっかけは09年、ガンダムの30周年イベントにたまたま立ち寄り、食品、インフラなど数多くの企業がガンダムとコラボしていることを知ったからだった。「僕もいつかは」。その思いが『ザクとうふ』として実現した。

ビールのおつまみの定番といえば、枝豆と冷奴。「ザクは緑色だから」と、薄緑色の枝豆味のお豆腐にした。すでに味がついているため、しょうゆはかけずに食べられる。
しょうゆがかかった状態は「被弾」と呼ばれ、工場では「1丁、2丁」ではなく、「1機、2機」と数える。この遊び心が、ガンダム世代を超えた消費者の心をとらえた。

5000丁売れれば大ヒットと言われる豆腐業界で、初回は14万機が“出撃”(販売)。1週間で累計約50万機が出撃する大ブレイク商品となった。
当初は周囲に反対され、あきれられてもいたが、「趣味を理解してもらおうと思わないし、(夫人も)何も言わなかった」。結果、ガンダム豆腐シリーズは420万機以上を売り上げた。

徹底した妄想と遊び心がヒットを呼ぶ

 

 

 

鳥越の真骨頂は、自身が「妄想」と呼ぶ想像力。『ザクとうふ』を開発した時の妄想も明確だった。

① 40歳の男性が夫人に付き合わされてスーパーへ。自分で行くとしても、おつまみとビール売り場にしか行かないその男性は、カートを転がしながら「玉ねぎなんか何個でもいいよ。早く終わってくれよ」と思っていたところ、豆腐売り場で異様な光景を目にする。

② 「なぜここにザクが?」。他の売り場では立ち止まりもしなかった男性は、お豆腐売り場でしげしげとザクを見つめている。夫人が「何を見ているの?」と寄ってくる。

③ ネット情報で『ザクとうふ』の存在を知った別の男性が、ジャージー姿で日曜のスーパーへ夫人と買い物に出かける。スーパーでは豆腐売り場へ一目散。「ニュースで見たあれだ!200円ならいいだろう、ビールのおつまみに」。夫人は興味なさそうに「…200円ならいいわよ」と答える。

鳥越のモットーは、「邪道は売れれば王道になる」「誰も叶えていない、何かを妄想すればいい」「赤っ恥上等」。いずれも『ザクとうふ』が証明した。

ザクとうふを製作するにあたり、大きな課題となったのが容器。複雑な形であり、柔らかさも必要とした。鳥越はメーカー各社に打診したものの、困難を理由に断られ続けた。

そこで、自身でプラスチック容器について猛勉強し、「できる!」という結論に至った上で、あるパックメーカーの社長に頼み込んだ。試行錯誤の末、開封後に『ザク』がプリッときれいに抜ける容器が完成した。その瞬間、いい大人の集団がザクを前に大歓声を上げて喜んだという。

ビジネスには「正規戦」と「ゲリラ戦」がある

経営手法には「正規戦」と「ゲリラ戦」がある、と鳥越は言う。正規戦とは、費用対効果を重視すること。例えば、豆腐の製造機械を改良するのであれば、どれだけの投資で、いくら原価を圧縮でき、どれくらいで投資を回収できるか、といったシミュレーションが欠かせない。

一方で、ゲリラ戦とは、まさに『ザクとうふ』を世に送り出した戦法で、費用対効果を考えていたら絶対に実現しないもののことという。「ゲリラ戦は妄想や個人の思いをベースに、人を巻き込んでいくしかない」と話す。

(②につづく=mimiyori編集部)

 

 

 

mimi-yori.com