読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
今回は埼玉県の飯能市・日高市をサイクリング。後半は、飯能市にあるもうひとつのムーミン谷「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」などを巡っていく。
「流れ橋」はギリギリ橋
曼珠沙華の咲く巾着田を後にし、西へ約2㎞。このあたりは高麗川が作る「横手渓谷」となっている。渓谷といってもそれほど深い谷ではなく、川幅も小さい。
秋には紅葉が見ごろだそうだが、9月下旬のこの日はまだ葉が青々としていた。したがって巾着田からほんの少ししか離れていないけど、観光客の姿はまったくなかった。
この渓谷に流れ橋という小さな橋がかかっている。小さな橋といっても、板を2本くっつけてだけという本当に小さな橋で、手すりなどもなく、四万十川の沈下橋のミニ版といった感じ。幅は人が1人通るのがやっとで、自転車やバイクでも渡れるとのことだが、乗車したままだと板の間にタイヤが挟まったりして、高麗川に落ちてしまうだろう。こんな橋が令和の今でも使われていることが興味深い。
瀧不動尊で七福神スタンプラリー!?
国道299号へ出て南東へ約2.5km。瀧不動尊というお寺に立ち寄る。本堂などのある建物と道路を挟んだ反対側が斜面に造られた広い庭のようになっていて、十一面観音像や弘法大師像など多くの像がまつられている。七福神の石像も点在しているようで、ちょっと歩いただけで寿老人、福禄寿、布袋尊、大黒天、弁財天の5つが見つかった。
最近、スタンプラリーをやりすぎているせいか、こうなってくると残り2つも見つけたくなってきた。小山の頂上にある大きな仏像に行く途中の坂で、毘沙門天を発見。残すは恵比寿様だけだが、頂上まで上ってもいない。しばらく迷った挙句、自転車をとめた駐車場と繋がる橋のそばで見つけた。つまり、最初に通り過ぎていたのだ。これで七福神コンプリート!
世界で一つだけの鉄腕アトムと飯能の元祖ムーミン谷
次は約2㎞南へ。お店や住宅も増えてきて、飯能の市街地に入ってきた。その中にある飯能市中央公園の片隅に、「鉄腕アトム像」がある。言わずと知れた手塚治虫の代表作、鉄腕アトムは日本の漫画・アニメの原点的作品だが、特に飯能と関係があるわけではないようだ。
1983年に飯能青年会議所の十周年記念事業の一環で、地域のシンボルとして立てられたもので、手塚治虫ご本人も除幕を行ったとのこと。鉄腕アトムの銅像としては世界唯一のものということで、気になる方は見に行ってみては。
次は約5km南東へ。ホッケー場や体育館、野球場などがある阿須運動公園の裏手に「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」がある。
トーベ・ヤンソンとは、フィンランドの画家・童話作家で「ムーミン」シリーズの作者。つまり、ここは前回紹介した「ムーミンバレーパーク」に先駆けること22年前の1997年にオープンしたムーミン谷をモチーフにした公園なのだ。
入場無料でムーミン聖地をはしご
この公園ができた経緯は、飯能市がヤンソンに「ムーミン童話の世界をモチーフにした公園を作りたい」という手紙を書いたことから始まる。すぐにヤンソンから返事が届き、数年間に渡る手紙のやり取りを通じて、公園は完成したそうだ。
しかも、この「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」は、入場無料。入口のサイクルスタンドに自転車を引っかけ、体育館の裏の緩やかな坂を100mほど上ると、まさにムーミン谷が広がっている。緑豊かな自然の中にムーミンの世界を思わせるような建物が5つほど建っていて、小川や池もある。
「ムーミンバレーパーク」は1日かけて遊ぶようなテーマパークだけど、ここは30分ほど歩き回ればすべての建物や園内を見て回れる。SNS映え写真を撮りに来るのもいいし、カフェやベンチあるのでサイクリング中の休憩にもよさそうだ。土日祝日の夜はライトアップもされるという。この日は平日だったが親子やペット連れが散歩してたりと、町の公園のように親しまれていた。ムーミン好きなら「ムーミンバレーパーク」と「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」をはしごするのも楽しそうだ。
というわけで、今回のサイクリングはおしまい。飯能は西側の名栗渓谷のあたりも見どころがあるので、機会があればまた行ってみたい。
(光石 達哉)