【行ったつもりシリーズ】常磐線サイクルトレインで行く筑波山とあじさいの名所(3)筑波山神社と雨引観音

茨城のあじさいの名所「雨引観音」。境内に向かう途中でも、きれいにあじさいが咲いていた(撮影:光石 達哉)

読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。

自転車を解体することなく、鉄道の車内にそのまま持ち込むことができるサイクルトレイン。2024年6月からJR常磐線の上野~土浦間で通年運航が始まったため、梅雨の晴れ間にさっそく利用して筑波山やあじさい鑑賞に出かけてみた。第3回は、筑波山神社やあじさい寺の雨引観音をめぐり、再びサイクルトレインで帰路につくまでをレポート。

 

 

筑波山神社で「ガマの油売り口上」

筑波山神社の随神門。門の前には、古来から疫病が流行る夏の前に無病息災を祈願する茅の輪くぐりが置かれていた(撮影:光石 達哉)

6月下旬の梅雨の晴れ間、自転車をそのまま載せられる常磐線サイクルトレインに乗って茨城県の土浦へ。そこから廃線跡の「つくば霞ヶ浦りんりんロード」を走り、途中で筑波山へヒルクライムした。

 

上りのゴールであるつつじヶ丘駐車場を出て、風返し峠の交差点を右折。来たときとは違う道で山を下り、途中にある「筑波山神社」を目指す。

 

この日は、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」のHPに掲載されていたコースデータをダウンロードしてナビに使っていたのだが、その通りに進むと途中で脇道に誘導された。民家の間の細い道を走ることになり、さらに進んでいくと下り階段もあり、立ち往生する。周りを見るとすでに筑波山神社の真横に来ているようだったため、見つけた入り口から境内に入ってみる。

 

「筑波山神社」ではガマの油売り口上が見られた。実際にガマの油を売っているわけではなく、口上を楽しむ大道芸として披露されている(撮影:光石 達哉)

境内では「ガマの油売り口上」を開催していた。先ほどのつつじが丘駐車場にも「ガマランド」という施設があり、筑波山は「ガマ(ヒキガエル)の油」が有名。ガマの分泌物を原料にしたもので、江戸時代に傷薬の軟膏として使われていたそうだ。

 

このガマの油を筑波出身の大道商人が江戸で売り出そうと、独特の売り口上を考案したところ、たいへんな人気を博したという。現在ガマの油は売られていないが、筑波山などでその口上が伝統的な大道芸として披露されており、つくば市の無形文化財にも登録されている。

 

筑波山神社の拝殿は、中央の大鈴が特徴。山頂の神々を遠くから拝む遥拝所でもある。このあたりの標高は約270m(撮影:光石 達哉)

僕が見ていたガマの油売り口上はもう終わるところだったため、筑波山神社を参拝。この神社は筑波山そのものを御神体と仰ぎ、男体山はイザナギノミコト、女体山はイザナミノミコトと日本誕生神話の主役となる神様を祀っている。本来の境内は、拝殿から山頂を含む約370ヘクタールにおよぶそうだ。拝殿の近くからは、男体山山頂付近まで筑波山ケーブルカーも出ている。

 

筑波山を下り切ったところに、りんりんロードの「筑波休憩所」がある。双峰の姿もよく見える(撮影:光石 達哉)

境内を出て、並んでいるお土産屋さんを横目に自転車を担いで階段を降りると、参道の入り口に出た。車道に出てしばらく坂を下ると、久しぶりに「つくば霞ヶ浦りんりんロード」に合流。ちょうど旧筑波鉄道の駅だった「筑波休憩所」がある。ここから再びりんりんロードを北上していく。

 

あじさい寺の石段にビビる

約35km地点の「雨引休憩所」。両側が高くなっていて、もともと駅のホームだったのがわかる(撮影:光石 達哉)

約10km走り「真壁休憩所」、さらに5km走って「雨引(あまびき)休憩所」を通過。その先でりんりんロードを右にそれ、茨城県のあじさいの名所「雨引観音」を目指す。小さな山の中にあるお寺で、近づくにつれて勾配が厳しくなってくる。りんりんロードから3km弱、勾配15%ぐらいまで跳ね上がってこれ以上は無理だと思った時、ようやく山門が見えてきた。

 

山門の前に駐車場があったが、やはりこの時期は人気なのかクルマでいっぱいだった。その片隅に自転車をとめる。

 

この雨引観音は、自生しているものも含めて100種5000株のあじさいが栽培されているそうだ。毎年6月10日~7月20日にはあじさい祭が開催されていて、ライトアップされる期間もある。

 

厳しい坂の先にあるあじさいの名所「雨引観音」。黒門をカラフルな和傘が彩っていた。春は桜の名所でもあるそうだ(撮影:光石 達哉)

門をくぐると、あじさいに囲まれた145段の石段。尻込みして、登るのを諦めてしまった(撮影:光石 達哉)

黒門と呼ばれる山門はカラフルな和傘が飾られていて、写真映えするようになっていた。くぐると磴道(とうどう)と呼ばれえる石段が145段あり、その左右には10種3000株のあじさいが植えられている。ただ疲れた脚で登る気力がなく、時間の余裕もなかったためここで写真を撮って引き返した。

 

江戸時代にタイムスリップ「真壁の町並み」

「つくば霞ヶ浦りんりんロード」旧筑波鉄道方面(全長約40km)の終点「岩瀬休憩所」に到着(撮影:光石 達哉)

雨引観音から下って、りんりんロードまで戻らず、ちょっと近道になりそうな県道を走り、約6kmで終点の「岩瀬休憩所」に到着した。ここには今もJR水戸線の岩瀬駅があり、かつては乗り換えの駅だったのだろう。休憩所の周りは何もなくて、ひっそりしている。

 

ここまでかなり時間は経っており、すでに午後3時10分過ぎ。常磐線サイクルトレインの帰りの便は午後5時25分発を予約しているため、約2時間で40km走り、土浦まで戻らないといけない。僕の脚だと油断していると、乗り遅れかねない。

 

土浦から約30km地点の「真壁休憩所」。サイクルラックには旧筑波鉄道の車両が描かれている(撮影:光石 達哉)

復路は、りんりんロードを使って急いで戻る。岩瀬から、約10kmの真壁休憩所に再び到着。順調に走ってきて時間的にも少し余裕ができたため、来る時にスルーした「真壁の町並み」へ寄ってみる。

 

真壁休憩所のすぐ近くにある「真壁の町並み」。江戸末期~昭和初期に建てられた商家などが今も数多く残っている(撮影:光石 達哉)

りんりんロードからわずか数100mのところにある真壁の町並みは、戦国末期から江戸初期までに町割りが完成し、江戸末期から昭和前期にかけて商業・産業が栄えたところ。現在も約300棟以上の見世蔵(みせぐら=店舗兼住宅)や土蔵・門などの歴史的建造物が、当時の町割りとともに残されている。

 

休憩所として整備されていないが、駅のホーム跡が残っているところもいくつかあった(撮影:光石 達哉)

こんな感じのフォトスポットが、僕が気づいただけで2カ所あった。ここは雨引休憩所と真壁休憩所の間(撮影:光石 達哉)

古い建物をいくつか眺めて、再びりんりんロードを走る。コース上、旧駅を再利用した休憩所は6カ所設置されているが、それ以外にも昔のホームの名残りを感じさせる場所がいくつかあることに気づいた。後で調べると筑波鉄道は全18駅あったそうで、そのすべてを確認することはできなかった。

 

ギリギリでも間に合う「サイクルトレイン」

サイクルトレイン発車10分ちょっと前に、土浦駅に到着。駅前にはこんなモニュメントがあった。「C」は自転車の車輪のイメージかな?(撮影:光石 達哉)

途中まではいいペースで走っていたものの、後半は向かい風が少し吹いてきてスピードダウン。また車道を横断するところも何カ所かあるのだけれど、こちらが止まって待っていると、茨城のドライバーさんはほとんど一時停止して渡らせてくれるのでありがたかった。

 

なんとか、発車時間10分ちょっと前に土浦駅に到着。こんなギリギリでも間に合うのは、サイクルトレインのありがたいところだ。土浦からサイクルトレインに乗る時は、有人改札で予約メールを見せて、自転車と一緒に通過。ホームの端っこの15号車に乗り込んだのは、発車ベルが鳴る寸前だった。

 

行き同様、帰りも自転車をむき出しのまま電車に載せる(撮影:光石 達哉)

車内は朝より少し混んでいたけれど、座席にはまだ余裕はある。ただボックス席は埋まっていたので、普通の横向きのシートに座り、無事に上野駅へ到着した。

 

自分のルート選びや脚力のせいでもあるけれど、朝にクーポン券をもらったりしたのに、今回は飲食店に寄ったり買い物する時間がほぼなかった。現在は上り下り各2本だが、もう少し本数を増やしてくれたら、時間的な余裕もできるかもしれない。

 

常磐線サイクルトレインはまだ始まったばかりで、今後、多くのサイクリストが利用することでより使いやすくなるように進化することを期待したい。何より輪行や車載移動(自分で運転するときは大変)と比べて少ない手間で、いつもとは違う土地を走れるのは楽しいことなので、興味ある人は出かけてみては。

 

(光石 達哉)

 

今回のルート:①筑波山神社―②筑波休憩所―③真壁休憩所―④雨引休憩所―⑤雨引観音―⑥岩瀬休憩所―⑦真壁の町並み

 

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