読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台のひとつである伊豆で、13個のスタンプを集めるデジタルスタンプラリーに自転車で挑戦。
後編は、源頼朝の配流地だった蛭ヶ島など中伊豆エリアのスポットをめぐった。
頼朝の流刑先「蛭ケ島」へ
今回は、2月末まで開催されていた「北条氏・源氏ゆかり13の地を巡るデジタルスタンプラリー」に挑戦。
三島から修善寺までを結ぶ伊豆箱根鉄道・駿豆線沿いに、ドラマにちなんで13のデジタルスタンプが設置されているという。
前回は函南町の六萬部寺まで6カ所のスタンプを集め、残りは7カ所。
まず六萬部寺から南へ4kmほど走り、伊豆の国市の韮山方面へ向かう。
伊豆エリアは大きな幹線道路は交通量が多いが、1本脇に入ると自転車で走りやすい快適な道が続く。
次のスポットは「蛭ケ島公園」。
平治の乱で源氏が敗れ、流罪になった源頼朝が14歳から約20年間過ごしたところ。先ほどの六萬部寺の経塚に奉納した法華経を6万回読経して過ごしていたのがここだ。
蛭ケ小島とも呼ばれるが、当時は狩野川の中州、または湿田の中の小さな丘(田島)だったようで、島と呼ばれていたのだろう。
現在は島ではなく、田んぼに囲まれた公園となっていて、頼朝と妻・北条政子の銅像が富士山の方を向いて並んで立っている。
近くには世界遺産の韮山反射炉などもあるが、それとは逆に西へ500mほど進み、駿豆線の「韮山駅」へ。
駅の反対側は今年1月にオープンした「伊豆の国大河ドラマ館」があり、賑わっているようだった。
頼朝の流刑地と北条氏の拠点は〝ご近所〟
次は南へ約1.5km走り、「眞珠院」へ。
頼朝の最初の妻で、ドラマでは新垣結衣演じる八重ゆかりのお寺だ。
八重は頼朝に会いに伊東から北条氏の屋敷を訪れたが、すでに頼朝は政子と結ばれていたので門前払いされた。
悲嘆した八重は眞珠院の前にある真珠ケ渕に身を投なげ、命を落としたと言われている。
境内には八重を祀る静堂があり、「せめて梯子があれば、助けられたものを」という思いから、今も小さな梯子が奉納されている。
このころの貴族や武将は複数の女性を妻とすることもあっただろうに、こんな悲しい話もあったんだね。
再びサイトの地図で見逃していたスポットがあったことに気づき、3kmほど北、韮山駅の西側に戻り、「北条義時館跡」へ。
大河ドラマの主人公である義時が青年時代を過ごした場所だそうだが、子どもたちが遊んでいる公園の片隅に石碑が立っているだけだった。
このあたりは北条氏ゆかりの地が多く、すぐそばに義時の墓がある北條寺がある。ただここには今回集めているデジタルスタンプはなく、拝観料が必要なのでスルー。
頼朝が暮らした蛭ヶ島と北条氏の拠点はほんの数kmの距離にあり、両者が結びついたのもある意味、当然の成り行きだったのかもしれない。自転車でめぐっていると、その距離感がよくわかった。
「遠山の金さん」のご先祖のお墓あり
しばらく南下し、伊豆市方面へ。
途中、伊豆半島を南北に流れる狩野川の土手を走ったり、伊豆長岡温泉、大仁温泉を横目に見て、約12㎞移動。
駿豆線・牧之郷駅の近く、線路沿いに「加藤景廉一族の墓」がある。
加藤景廉(かげかど)は頼朝の挙兵にいち早く加わり、源氏方の最初の戦果である山木兼隆を討ち、鎌倉幕府創設にも貢献。
ここ牧之郷も領地のひとつとして与えられたとのことだ。ちなみに景廉の遠い子孫には「遠山の金さん」こと遠山左衛門尉金四郎景元もいるという。
僕が写真を撮っているときにも地元の女性が手を合わせていたり、水や缶コーヒーが供えられたり、今でも地元の人に慕われているようだ。
次は約2km南の「修善寺駅」へ。駿豆線の終点で、2013年にリニューアルされた駅舎はまだ新しく、駅前には芝生の広場もあったりする。
13スタンプ全制覇! 絶景の夕焼けが祝福
いよいよ最後のスポット、500mほど西にある「横瀬八幡神社」へ。
無人の小さな神社だが、頼朝の嫡男で鎌倉幕府二代将軍の源頼家を御祭神の一柱とする。
北条氏との確執で修善寺に幽閉された頼家はここから約200m離れたところにあった月見ヶ丘から月を眺め、鎌倉をしのんだという。その月見ヶ丘にあった祠をここに移して、八幡神社としたそうだ。
これで13個のデジタルスタンプをコンプリート。特典として、沿線の名産品があたる抽選に応募することができる。
このスタンプラリーは22年2月末で終了しているが、伊豆エリアでは他にもサイクリングのヒントになりそうなイベントがいろいろあるようなので、探してみるのもいいだろう。
ここまで約55km走り、時刻も16時半とだいぶ日も傾いてきた。地図アプリを見るとこのあたりは伊豆半島でもかなり内陸のようだ。
せっかくなので海の方も見てみたいと思い、ちょっと遠回りして帰ることに。
10kmほど走って沼津市の内浦湾に出ると、ちょうど夕日が沈むところだった。昼間は空を覆っていた雲も晴れて、富士山の姿もくっきり見えた。
今回走ったのは伊豆半島のごく一部だったので、機会があればもっと広いエリアも走って見たいものだ。
(光石 達哉)