【パラアルペンスキー】世界トップクラスのテクニシャン・鈴木猛史が回転第1戦制す~ジャパンカップ3日目

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回転第1戦を制した鈴木猛史(撮影:丸井 乙生)

パラアルペンスキーのジャパンカップ3日目が6日、長野・野沢温泉スキー場で行われた。回転第1戦は、男子座位ではこの種目で2014年ソチ大会で金メダルを獲得した鈴木猛史が優勝。海外選手のチェアースキーで大流行しているフランス製のフレームをテストし、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ大会でのメダル獲得に向けてスタートを切った。

男子立位では、社長兼アスリートの青木大和が第一人者・三澤拓を上回って優勝。競技歴2年で3月の北京パラリンピック出場を果たした有望株が結果を出した。

 

 

 

 

海外で流行中のチェアスキーをテスト

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鈴木が今大会で試したフレーム(スキーとシートをつなぐ金具)。日本製は複雑な構造の場合が多いが、シンプルなつくり(撮影:丸井 乙生)

元世界チャンピオンが、4年後のリベンジに向けて滑り出した。

14年ソチパラリンピック回転金メダリストの鈴木猛史が、回転第1戦で圧勝。1本目は2位・森井大輝に約3秒差、森井が猛追した2本目も0秒29差をつけ、得意の技術系で今大会初優勝を飾った。

「きのう(5日)右肩を痛めてしまったのですが、逆にそれが良かったのかな」

3月の北京パラリンピックでは、回転で無念の途中棄権。次回大会では何としてもメダル獲得を、という決意は強い。

これまで日本企業が開発したチェアスキーを使用してきたが、今大会では、海外選手のトップ選手たちがこぞって使用しているフランスのメーカー「TESSIER」のフレーム(スキーとシートをつなぐ金具)をテスト。海外勢が技術系を制した理由を探っている。

「少ない重心移動で乗れる感触でした。お尻の動きが少なくて済む。スキーの板を生かせるのかなと思います」

 

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大会初日、大回転第1戦でゴールする鈴木。初日からフランス製のフレームをテスト
(撮影:丸井 乙生)

北京大会には忸怩(じくじ)たる思いがある。

21年11月に海外合宿から帰国した空港で新型コロナウイルス感染が判明し、入院を経て準備が1カ月ほど遅れてしまったという。

プレ大会自体がコロナの影響で開催できず、初めて会場を目視した北京大会本番では、過去に経験したことがないほどの難関コースが待っていた。

「(現地に)行った当初は難しくて悩みました。海外は地形を生かしたコースが多いんです」

小2で交通事故に遭って両脚切断。小3から福島・猪苗代でチェアスキーを始め、中学・高校ではスキー部に所属して技術を磨いてきた。

アルペンスキーの回転では、ターンの内側の腕や肩をポールに当てて倒す滑り方が「順手」、外側の腕や肩で倒す方法が「逆手(さかて)」。競技スキーでは「逆手」が主流となっている。

鈴木はアウトリガー(ストック)を振り上げて「逆手」でポールをなぎ倒し、最短のライン取りを行う。チェアスキーでは世界でも数少ないテクニックの持ち主だ。

「やっぱりメダルが欲しいんです」

チェアスキー界きってのテクニシャンが、人事を尽くして世界の頂点を狙う。

 

男子立位では 「社長」が優勝!!

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男子立位で優勝した青木大和(中央)。2位の三澤拓(左)、3位の高橋幸平(右=撮影:丸井 乙生)

男子立位では、社長兼アスリートが優勝を飾った。モビリティ事業の会社経営者・青木大和が、パラリンピック5大会連続出場の第一人者・三澤拓のタイムを2本とも上回り、表彰台の真ん中に立った。

「初めて優勝できたので良かったです。楽しい2年間でした。北京(パラリンピック)で初めて世界のトップ選手を見て、追いつきたいという思いと悔しさが芽生えました」

 

中学・高校ではスキー部に所属。21歳の時に階段からの転落事故で脊髄を損傷し、両足、特に左足にまひが残った。その後、起業を経て20年から北京パラリンピック出場を目指して競技としてアルペンスキーを再開した。

「2年前は北京(出場)は難しいと言われたけれど、口に出すことで自分にプレッシャーをかけてきました」

22年2月のジャパンパラ大会では3種目とも2位。しかし、最後の出場枠に滑り込んだ形でパラリンピック初代表に選出された。結果は回転26位、大回転30位だったが、得意の技術系でさらなる飛躍を期している。

 

経営する会社では24年上場を目指し、今大会中も午後はリモートで会議に出席するなど多忙な日々を送る。コンディション管理のために、トレーナーから勧められて心拍数、睡眠時間を自動計測する指輪「Ouraリング」を常時装着するなど、日常生活から工夫した。

「北京のレース中、心拍数がものすごく上がっていたんです(笑)。4年後は表彰台に乗ることが大事だと思っています」

北京で味わった喜びと悔しさを胸に、28歳の若き社長は4年後までハードスケジュールで突っ走るつもりだ。

 

北京金メダリスト・村岡桃佳は今大会3勝目

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村岡は青色マスクで出場。日ごとに異なるマスクを身に着け、おしゃれに
(撮影:丸井 乙生)

北京パラリンピック3種目金メダリストの村岡桃佳(女子座位)は、この日の回転第1戦も制して今大会3勝目を挙げた。

回転は北京大会5位で、5種目のうち唯一メダルを逃した種目。レース序盤の緩斜面は「自分から動いて」(村岡)加速をつけ、ポールに当たる意識で滑り切り、2本とも圧倒的なタイムをマークした。

女子立位・本堂杏実は今大会2勝目

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本堂の滑り。左手にはイチゴ柄の義手をはめている
(撮影:丸井 乙生)

女子立位では、パラリンピック2大会連続出場の本堂杏実が優勝した。初日の大回転第1戦は最後の最後で旗門不通過。2日目の同第2戦で北京パラリンピック代表・神山則子が負傷したため、この日からはただ1人の出場となっていた。

パラリンピック初出場となった18年平昌大会では、回転8位が最高位。2度目の出場となった3月の北京大会では、出場5種目で入賞を果たし、滑降、回転は6位に入った。

 

滑降など高速系を得意としており、回転種目は「とてもとても苦手です」。それでもこの日は「気持ちよく滑れました」と振り返った。

 

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本堂は七色のフェイスマスク(撮影:丸井 乙生)

4年後に向けては筋力アップを自らの課題とするほか、夏場もスキーのシミュレーターマシンで基本動作の向上を予定する。

アルペンスキーは幼少時から始めている選手が多い中、もともとは日体大ラグビー部でフランカーを務めたほどのラガーウーマン。17年4月から日体大スキー部に所属した変わり種で、スキー歴でいえば伸びしろはあるはずだ。

「なぜ(海外選手は)速いのか。健常のワールドカップを見て(技術などについて)いろいろ感じられるようになってきました。メダルに私の技術が届いていなかった。技術、フィジカルをステップアップさせていきたい」

 

パラリンピック過去2大会で順調に成績はアップ。日本女子では貴重な女子立位選手が、ラグビー仕込みの気合と根性で邁進する。

(丸井 乙生)

 

◆大会成績(回転第1戦 ※タイムは2本合計)

<男子立位>
①青木大和1分25秒65
②三澤拓1分25秒82
③髙橋幸平1分26秒16
④東海将彦1分29秒11
⑤小池岳太1分31秒70
⑥宮田一也2分07秒86

<男子座位>
①鈴木猛史1分20秒42
②森井大輝1分23秒42
③狩野亮1分25秒26
※途中棄権=藤原哲

<男子ID>

①木村嘉秀1分31秒03
②木附雄祐1分42秒48
③金澤碧詩1分43秒21
④平野井渉1分46秒50
⑤三浦良太1分52秒34
※途中棄権=津田幸祐、失格=宮本涼平、五味逸太郎

<女子立位>
①本堂杏実1分44秒23

<女子座位>
①村岡桃佳1分34秒73
②田中佳子1分51秒63
③原田紀香1分54秒61
④岸本愛加1分57秒35

<女子ID>
①浅野陽香3分05秒76
※途中棄権=馬場圭美

 

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