パラ水泳日本選手権で16年リオパラリンピック銀メダル相当のタイムをマークした辻内彩野
(提供:日本身体障がい者水泳連盟=3月6日撮影)
パラ水泳の日本選手権は7日、静岡県富士市の富士水泳場で最終日を行った。視覚障がいクラスでは、S13(弱視など)女子の辻内彩野(三菱商事)が50、100メートル自由形で日本新記録をマーク。50メートルの27秒83は、16年リオパラリンピックでは銀メダル相当の好タイムを叩き出した。S11(全盲)女子では石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)が50メートル自由形で日本記録を樹立。2016年リオパラリンピック選考会で派遣標準記録に0.3秒及ばずに出場をの逃した悔しさを胸に、21年8~9月開催予定の東京パラリンピックに向けて着実な成長を見せている。
辻内彩野 リオパラ銀相当の好タイム
耳打ちされた好タイムは、自分のこととは思えなかった。「27秒台だよ」。S13(弱視)クラスの辻内はS11(全盲)の石浦から教えられたが、「きょう(7日)は27秒台が出ると思っていなかったので」と他選手の成績だとばかり思っていた。
プールから上がって再確認したところ、ようやく自分のタイムだと知った。「そこで”ウェ~イ”ってなりました(笑)」。24歳の辻内が相好を崩した。
小3から水泳を始め、高校時代に黄斑ジストロフィーによる視覚障がいで視力が低下した。卒業後に一時プールから離れたが、パラ水泳に転向して競技復帰を決めた。2019年3月の春季記録会で27秒92の日本記録を樹立。同年の世界選手権(英国)では100メートル平泳ぎで銅メダルを獲得し、本命種目の自由形では50メートル5位、100メートル4位とメダルに肉薄していた。
コロナ禍で20年中盤まで大会出場の機会を失ったが、同年11月に東京都マスターズに出場し、50メートルで27秒75の自己ベストをマークした。健常者の大会だったため日本新記録にはならなかったが、27秒台は16年リオパラリンピックでは銀メダル相当の好タイム。 今大会の27秒83も同様で、東京パラリンピックのメダル候補であることは間違いない。
辻内彩野 目標は世界記録に近づく26秒台
東京パラリンピックでも活躍が期待される辻内彩野
(提供:日本身体障がい者水泳連盟=3月7日撮影)
今後の課題には呼吸を挙げた。「呼吸の数が多いこと、息を吸う時に軸がブレてしまうこと。ここは改善できるところです」。これまでは感覚で泳いでいたが、最近は「どうしたら水をつかめるか、押し切れるか、ゴールタッチはどう合わせようか」と”考える水泳”にシフト。苦手の左呼吸を練習に取り入れ、左右差をなくすことを心掛けている。
27秒台は通過点だという。「6秒台を狙えるようにしていきたい」。S13の世界記録は18年にカルロッタ・ジリ(イタリア)がマークした26秒67。 伸び盛りの24歳、代表に選出されればパラリンピック初出場となる本番までの成長が楽しみだ。
石浦智美 本命の50m自由形で日本記録更新
パラリンピック初出場に向けて転職、手術を乗り越えてきた石浦智美
(提供:日本身体障がい者水泳連盟=3月6日撮影)
あと0.3秒で16年リオパラリンピック出場を逃したS11クラスの石浦は、順調に階段を上っている。本命種目の50メートル自由形では、18年アジアパラ(インドネシア・ジャカルタ)以来となる自己ベスト31秒03で優勝を飾った。
「今まで強化してきたレースプランに近づいている。50メートルのタイムはまだ上がると思います」
今回の課題は、飛び込んだ後のドルフィンキック。「(20年)11月のレースでは、レーンを逸脱してしまったので、トラウマになっていたのかもしれません。(ドルフィンキックが)甘かったです」とさらなるタイム短縮を期した。
近年は順調にタイムを縮めているが、16年リオパラリンピック選考会の前後までは競技環境が厳しかった。コーチに師事することができず、自主練習のような状態で、16年リオパラリンピックの代表選考会では派遣標準記録にあと0.3秒及ばずに、初出場を逃した。その後はコーチを見つけ、17年には転職して伊藤忠丸紅鉄鋼に所属。競技に専念できる環境を得て、結果を出し続けてきた。
東京で初出場を目指すS11クラスの石浦智美
(提供:日本身体障がい者水泳連盟=3月7日撮影)
全盲クラスのS11。光を感じることはできるが、持病の緑内障の影響で高い眼圧を薬や適度な休養を入れることでコントロールしつつ、競技に取り組んでいる。
「(東京パラリンピックの)目標は金メダル。30秒台を予選でも決勝でもコンスタントに出していきたい」
こちらも、30秒台はリオパラリンピックではメダル圏内のタイム。東京パラリンピック初出場に、すべてをかけて臨む。
(丸井 乙生)