企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「バラ(薔薇)」の前編。バラの花は春(5~7月)に咲くのが一般的だが、秋(9~11月)に二度咲きするものも少なくない。
女性への贈り物としてのイメージが強いが、前編では買わなくても身近で見られる野生種をいくつか紹介する。
女性の悩みを解決するバラ
「ノイバラ」は日本の野生種の中でも普遍的な種で、沖縄を除く全国の身近な山地、野原、河原などに自生する。
花色は白、時に淡紅色で、直径約2~3センチと小さい花が20個ほどの房咲きになる。開花時期は春(5、6月)と秋(9〜11月)。辺り一帯にほのかにいい香りが漂う。
秋に実る果実は球形で、美しい赤色に熟す。便秘、にきび、腫れ物などへの薬効があり、「営実」という生薬名で利用されてきた。その歴史は日本でも古く、大同3年(808年)に勅命によって編さんされた医書『大同類聚方(だいどうるいじゅうほう)』には、ノイバラの実とみられる「牟波良美(むばらみ)」という名前が出てくる。
また、江戸時代にはノイバラの花を蒸留したものに香りをつけた“化粧水”が、顔の吹き出物に効くとして使用されていたという。
浪速商人が日本に持ち込んだバラ
「ナニワイバラ」は中国南部や台湾の原産で、主に西日本で野生化している。江戸時代に難波商人によって日本に持ち込まれて販売されたことが名前の由来とされる。
つる性の常緑低木で、花期は5月ごろ。白色で大きく香りのよい花を付ける。直径約5~9センチの5弁花で、花の中央には黄色の雄しべが集まっている。
果実は秋になると赤橙色に熟す。生薬で「金桜子(きんおうし)」といい、止瀉、縮尿などの薬効があるとされている。
ビタミンCが豊富なバラ
「ハマナス」は本州から北海道の海岸砂地に自生する落葉低木。細かいトゲがたくさんある枝先に、夏(6~8月)になると紅紫色、まれに白色の花を咲かせる。
耐寒性に優れていることから、多くの園芸品種の交配親となっている。北米では観賞用に栽培され、ニューイングランド地方沿岸には帰化しているという。
果実は球形で、8~9月に赤く熟す。ビタミンCが豊富で滋養強壮、疲労回復の薬効があり、生薬として利用されるほか、ローズヒップとしてお茶やジャム、果実酒にも使われている。
ハマナスは北海道の「県の花」に指定されるなど、元来はよく見かける花だったが、最近は自生しているものが少なくなり、多くの県で絶滅危惧種、準絶滅危惧種に指定されている。散策途中で見かけた際には、そっと見守りましょう。
(安藤 伸良)