企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の自然コラム。つれづれなるままに、今回は身近で見られる「キク(菊)」の前編。古来より格式高いキクは仏花として使われることから、最近では輸入品を含めほぼ1年中花屋で見られるが、日本では秋に咲くものが多い。意外と種類が多いため、この時期は近場や旅先でのキク探しの散歩がお勧めです。
種類が豊富!世界で2万種も
キク科の植物は世界で2万種、日本には約350種が自生していて、帰化植物も100種以上はあるといわれている。秋になると各地の公園や植物園などで菊花展が開催され、丹精込めて育てられた大輪の菊花を楽しむことができる。東京の新宿御苑では、毎年11月前半に「皇室ゆかりの菊花壇展」が開催されている。今回はこのような菊花展では見られない、私たちに身近な野菊を紹介したい。
キクの頭花は小さな花が集まったもので、筒状花(とうじょうか)と舌状花(ぜつじょうか)からできている。花によっては、筒状花だけのものと、舌状花が周りに並び中心に筒状花が集まるものの2種類がある。
黄金色の泡に見えるキク
「アワコガネギク(泡黄金菊)」は、主に東北から関東の太平洋側と近畿地方に分布する黄色の野菊。開花時期は10~11月。最盛期には直径1.5センチほどの小さな黄金色の花が密集し、泡のように見える様子から命名された。場所によっては12月に入っても見ることができるため、冬に向かって彩りが減ってくる野山などにはよく映える。
海岸線に咲くキク
「イソギク(磯菊)」は、日本固有種の野生菊で、千葉県の犬吠埼から静岡県の御前崎までの太平洋岸や、伊豆諸島の海岸などで見ることができる。花期は10~12月。頭花は筒状花のみで構成された集合花で、キク科の植物に多く見られる花弁のような舌状花はない。
葉は緑で厚く、白く縁取りされているように見えることも大きな特徴。これは葉裏に密生している白い短毛がわずかに見えているため。この独特の葉と花弁のない小さな花は、菊の花で衣装を飾った菊人形にもよく利用されている。
タンポポみたいに飛んでいくキク
「サワギク(沢菊)」も日本固有種で、北海道から九州まで、全国の山地の湿り気のあるやや暗めの林内に生える。花期は6〜8月で、直径1.2センチほどの小さな黄色の頭花をたくさんつける。
別名は「ボロギク」なのだが、花や葉からぼろさは感じられない。花が終わるとタンポポのように白い冠毛の目立つ痩果(果実)となり、飛散する時にぼろくずのように見えることからボロギクと呼ばれるようになったらしい。
美しく生薬にもなるキク
「シオン(紫苑)」は、淡い紫色がかった花で、その色の美しさから名前が付いたと考えられている。山地の湿った草地に生え、古い時代に中国もしくは朝鮮半島から渡来したと言われる。
花期は8~10月で、頭花は直径約3センチの舌状花。丈は180センチほどにもなる。「ジュウゴヤソウ」という別名もあり、根は生薬としてたん切りや咳止めとして利用される。
新芽は山菜として食べられるキク
「シラヤマギク(白山菊)」は、全国の山地の乾いた草地や道端に多く見られる。花期は8~10月で、頭花は直径約2センチ。高さは約1~1.5メートルにもなる。舌状花は白色で、他の野菊に比べて数が少なくまばらになっている。茎や葉には短毛があってザラザラしている。
新芽は「ムコナ」と呼ばれ、春の山菜として食用にする地方もあるのだそう。大きくなってしまうとかなり強いにおいになってしまうため、おいしく食べるなら早め厳守らしい。ちなみに「花より団子より酒」の娘は、「9月9日の重陽の節句では、昔からキクの花を浮かべた『菊酒』を飲むらしいよ」とキクに関して知る唯一の雑学を自慢げに披露している。
(安藤 伸良)