【雑学】自然観察指導員の徒然草=花見を自粛している皆様のために サクラのあれこれ②

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山口県岩国市の錦帯橋とサクラの花 2018年4月2日 (撮影:安藤伸良)

自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。

日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能。企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。

つれづれなるままに、今回は日本人が最も好きな花、サクラのあれこれ続編を紹介する。

 

サクラは平安時代から愛された

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東京都内の自宅近くで咲いたオオシマザクラの花 2016年3月25日 (撮影:安藤伸良)

日本ではいつ頃から桜が愛でられるようになったのだろうか。
現存する最古の和歌集「万葉集」には約 4500 首、4世紀から奈良時代まで、あらゆる身分の人の、あらゆる時代の歌が収録されている。4500首のうち、植物名が記されているのは約1500首。内訳をみると、梅は119首も詠まれているのに対し、桜は42首に過ぎない。
ところが、平安時代に登場した「古今和歌集」では、梅に代わって、桜が花の定番となった。この時期から現在に近い愛され方をするようになったようだ。
京都御所の紫宸殿(ししんでん)には、向かって左手に右近の橘、向かって右手に左近の桜の木が植えられている。以前は桜ではなく梅が植えられており、平安時代になって武士の台頭と共に桜(ヤマザクラ)に植え替えられたとか。派手に咲き、潔く一斉に散る桜花が武士の潔い生き様を表しているとして好まれたのではないかと考えられている。

秀吉主催のパーティーが花見の元祖

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東京・新宿御苑に咲いた交雑種のヨウコウザクラ 2011年4月8日 (撮影:安藤伸良)

春に桜を観賞する習慣は古くからあったとされるが、貴族や上流階級の一部の人たちだけに許された伝統行事だったらしい。現在のように宴会を開く花見の文化をつくったのは、豊臣秀吉だといわれている。1598年に「醍醐の花見」と呼ばれる、桜を見ながら酒席を楽しむパーティーを開催し、それまでの厳かな花見とは違った形式で騒ぎながら楽しんだとされる。
一般庶民に根付いたのは、江戸時代になってから。この時代になると、現在と同じような酒宴が開かれるようになった。「長屋の花見」という落語があることでもわかるように、花見が貧しい庶民にまで春の楽しみとして広まり、季節のイベントとして定着した。

ソメイヨシノは染井村の植木職人がつくった

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東京・井の頭公園のサクラ。2020年は公園の一部封鎖でこの風景がゆっくり楽しめない。 2018年3月27日 (撮影:安藤伸良)

現在の日本で最も多く植えられている桜はソメイヨシノ(染井吉野)で、江戸時代に染井村(現在の豊島区駒込)の植木職人、伊藤伊兵衛政武がオオシマザクラとエドヒガンを掛け合わせてつくったものと言われている。

ソメイヨシノはタネができず、挿し木で増やされるため、遺伝子が同一のクローン。春に温度の上昇に連動して開花するため、南から北への「開花前線」の標本木として使われている(北海道の一部を除く)。

1年に2回も咲くサクラもある

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都内の自宅近くに咲いたウコンザクラの花。珍しい淡黄色が特徴。2016年4月8日 (撮影:安藤伸良)

大多数の桜は春(3~5月)に咲く。2020年は温暖化のためかソメイヨシノの開花が記録的に早く、東京・靖国神社の標本木が、全国に先駆けて3月14日に開花した。
一方で、冬桜系の四季桜、十月桜、子福桜などは、年に2度(10~1月、3〜4月)咲く。  
最近では「仁科乙女」という1年中いつでも咲く品種が開発されている。放射線を照射して温度と開花に関係する遺伝子を壊し、人工的に突然変異を生じさせたものだ。
花の色は、白やピンク系が大半だが、変わった色の品種も見かける。カンヒザクラ(寒緋桜)は濃紅色、ウコンザクラは淡黄色、黄緑色のギョイコウ(御衣黄)などがある。

花より団子ならオオシマザクラに注目

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春は花だけでなく団子も欠かせない。自宅でおいしく食べた桜餅。2010年3月9日 (撮影:安藤伸良)

最後に「花より団子」の方のために。
春の定番和菓子でもある「桜餅」には、オオシマザクラの葉が使われている。
オオシマザクラの葉には良い香りの成分である「クマリン」が多く含まれているため、口に入れた時に爽やかな味がする。このオオシマザクラの葉は、現在は静岡県の松崎町、南伊豆町で栽培されている。
また、「桜湯」に使用される花は、以前はフゲンゾウ(普賢象)の花が使われていたようだが、現在はカンザン(関山)など八重咲の花が用いられている。(安藤 伸良)