自然観察指導員とは、自然を守る登録制ボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。
日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能。企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。
つれづれなるままに、今回は漢字で書くと、なぜか草冠ではなく、足偏の「躑躅(つつじ)」。外出自粛が続いてゆっくり観賞できない人のために、これまで撮りためた写真を多めにお見せしたい。
思わず「足を止める」美しさ
全国の野山や公園を彩ったサクラの花の時期が過ぎると、追い駆けるように咲きだすのが、ツツジの花。
漢字の「躑躅」は漢名(中国の名前)からきたもので、「てきちょく」とも読む。「躑躅(てきちょく)」には「行っては止まる」という意味があり、見る人の足を止める美しさから、この漢字があてられたのでは、といわれている。
ツツジは、ツツジ科ツツジ属の低木で、北半球の温帯地方を中心に約850種が知られている。日本には52種ほどが自生しているとのこと。花の美しいものが多く、万葉集にもツツジの花が詠み込まれている歌がある。江戸時代には久留米藩がつくり出した「クルメツツジ」をはじめとする多くの園芸品種が作出され、現在では庭木、生垣、公園樹、盆栽などにされて広く人々に愛されている。
公園などに植栽されているツツジは、花の色が朱色、紅紫色、白色などの園芸品種が中心。今回は筆者がこれまでに出会ったツツジ属のいくつかを紹介したい。
レンゲツツジは日本各地に名所あり
レンゲツツジはオレンジ色の鮮やかな花を咲かせ、高原の初夏を彩る花として各地に名所がある。特に長野県と山梨県には大群生地があるそう。
ちなみに、群生地ではないが、長野市鬼無里(きなさ)にある奥裾花自然園は筆者お気に入りの自然観察スポットで、写真㊤のレンゲツツジは11年前に同園で撮影したもの。2020年はウィルス感染拡大の影響で5月半ばまで休園となっているが、再開後に訪れた人が楽しめるよう美しく咲いていることを願う。
山火事に間違えられたヤマツツジ
ヤマツツジは全国に広く分布している日本の野生ツツジの代表格で、主に淡紅色、朱色の花が野山一面に咲き誇り見応えがある。
奈良県と大阪府の境にある大和葛城山(やまとかつらぎさん)では、5月中旬から下旬にかけて山肌が一面にヤマツツジの花で真っ赤に染め上げられ、その昔、麓から山を眺めた人が山火事と間違えたとのエピソードが伝えられている。
ヒカゲツツジは独特の黄色系
ヒカゲツツジはツツジの仲間では珍しい黄色の花が咲く。日陰では蛍光色のようにも見える独特の雰囲気で、自生地では水辺を照らすことから「サワテラシ」とも呼ばれている。ヒカゲツツジとはいえ、もちろん完全な日陰では育たない。
また、トップ写真で紹介したミツバツツジは、主に関東から中部地方に分布する落葉樹で、春に葉が出る前に紅紫色の花をつける。開花後、枝先に3枚のひし形の葉をつけるころから、ミツバツツジと呼ばれている。
欧州でも愛されるシャクナゲ
シャクナゲ(石楠花)はツツジ属の1つで、日本では4~6種が自生しているといわれるが、多くの品種は海外から持ち込まれている。特に欧州では、中国からもたらされた19世紀半ばから愛され、多くの園芸品種が作出されたといわれる。
筆者がサラリーマン時代に暮らした英国のロンドン郊外にあるバージニア・ウォーター(Virginia Water)湖周辺には、シャクナゲの木が数多く植えられていて見事な景観になっている。
アゲハチョウが花粉を運ぶ
ツツジの花の内側をのぞくと、5枚ある花弁のうち1枚だけにヒョウ柄模様のような斑点がついていて、他の4枚と違うことがわかる(写真㊤)。これを「蜜標」(みつひょう)という。
大半の花は虫に花粉を運んでもらう代わりに、報酬として花蜜を提供している。花に来た虫が効率的に花蜜の場所に行きつけるよう、花弁に派手な目印を付けているというわけ。そして吸蜜にやってきた虫に花粉の受け渡しが確実に出来るよう、雄しべと雌しべはそれぞれ蜜標の方向に曲がっている。
ツツジの蜜を吸う昆虫は、アゲハチョウの仲間がほとんど。アゲハを撮影したい写真好きの人は、ツツジを狙っていれば、高い確率でナイスショットが撮れる。
(安藤 伸良)