【雑学】自然観察指導員の徒然草=ユリは本当に美人の代名詞? 鬼もいればスカンクもいる~前編

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東京・井の頭公園に咲いていたヤマユリの花。

結婚式のブーケにも使われるなど人気が高い。2018年7月2日 (撮影:安藤伸良)

企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の自然コラム。つれづれなるままに、今回は英語名の「リリー」でもよく知られる「ユリ(百合)」を紹介する。例年とは違うコロナ禍の夏休みで気が滅入りがちな方は、夏に美しく咲く花を癒しにしてください。

 

ヤマユリは日本ユリの女王

ユリはユリ科ユリ属の草本で、世界に広く分布している。歴史は古く、古代エジプトでは豊穣の象徴とされ、農耕の女神イシスに捧げられる花とされてきた。中世以降は、真っ白なユリが聖母マリアを象徴する花とされるようになり、多くの宗教画に描かれるようになった。

日本では15種ほどが自生していて、球根がでんぷん質に富むため古くから食用や滋養強壮の薬用にされてきた。万葉集にも「ゆり」の名前で登場している。美人の形容として「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」ということわざがあるように、日本人にとってはなじみ深く、人気の花の1つといえる。

日本のユリの女王とされる「ヤマユリ」は主に本州の山野で広く自生している。花期は7~8月で、直径22~24センチの大型の花が咲く。反り返った花弁には白地に黄色い帯状の筋が入り、えんじ色か紫褐色の細かい斑点が散る。甘く強い芳香を放つ。

オニユリは球根がおいしい

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東京・新宿御苑のオニユリの花。花の見た目は「赤鬼」でも球根はおいしい。

2013年7月20日 (撮影:安藤伸良)

「オニユリ」は人里近くに多く生える。球根が大きく、食用にもされる。料理に使われる「ユリ根」として販売されているものは、ほとんどがオニユリのもの。一説では、食用にするために中国から日本に渡来したといわれる。

開花時期は7~8月で、茎上部に10~12センチの花が横向き、または下向きに咲く。花被片は大きく反り返り、橙紅色で濃い斑点がある。存在感のある花の姿が赤鬼を連想させることから、「鬼百合」と名付けられたと考えられている。

タネはできず、葉の付け根に出来る「珠芽(むかご)」と呼ばれる黒い球状のかたまりである芽の一種で増える。似た花に「コオニユリ」があるが、こちらは珠芽を作らずタネができる。

「車」や「鉄砲」もユリの仲間

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長野県白馬村の八方尾根自然研究路で見かけたクルマユリの花。

2010年8月25日 (撮影:安藤伸良)

「クルマユリ」は主に亜高山帯の草原に咲く。葉が茎から輪生状に出て、これが車輪に似ていることから命名された。花期7~8月で、橙赤色で直径3~4センチの花が下向きに咲く。花被片は強く反り返る。 

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東京・井の頭公園で咲き誇っていたテッポウユリの花。

2015年8月13日 (撮影:安藤伸良)

「テッポウユリ」は花の基部が細長い管状になっており、ラッパに似ていることから名付けられた。花期は3~6月で、花は白色で芳香がある。直径10~15センチの花が真っ白で豪華なことから、日本だけでなく海外でも人気が高い。

日本固有のユリとして知られ、屋久島以南、沖縄に自生している。主に海岸近くの崖などに生える。明治時代から外国へ輸出されるようになったとされる。

注目されたい?スカシユリ

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熊本・阿蘇の「そば街道」で蕎麦満喫中に見つけたスカシユリの花。

2014年8月20日 (撮影:安藤伸良)

「スカシユリ(透かし百合)」は、花被片の基部に隙間があり、中が透かして見えることから命名された。主に静岡県、伊豆諸島、新潟県以北の海岸近くに生える。

花期は6~8月。花被片は橙赤色で赤褐色の斑点があり、ユリ科としては珍しく空を見上げるように上向きに咲く。花びらを大きく広げ、花の中が透けている姿にちなんで、「注目を浴びる」という花言葉が付けられたとされる。

園芸種には、花の色が白や黄色、濃い赤などのものがある。また、販売されている花には根元に隙間がないものも多く、「スカシユリ」なのに「スカシがない」というケースがある。
(安藤 伸良)