自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能だ。
企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。
つれづれなるままに、初回は変な名前の木シリーズ第1弾、「バクチノキ(博打の木)」って何?
バクチと日比谷公園で出会う
都内にある自宅の狭い裏庭で、2019年10月に初めてバクチノキの花が咲いた。8、9年前に日比谷公園で拾ってきたタネを植えて育ててきた木が待望の花をつけたのだ。
バクチノキは一般的になじみが薄く、筆者も日比谷公園の松本楼近くで見たのが初めて。自宅の木は現在3メートルほどだが、最大で20メートル近くまで育つ。都内では、調布市の神代植物公園でも見られる。
バクチはサクラから独立
バラ科バクチノキ属の常緑樹で、関東以南の本州、四国、九州、沖縄の主に沿海地に自生している。関東では伊豆半島に比較的多い。以前はサクラ属に分類されていたが、サクラの仲間の大半は落葉樹。花期も春が多いが、バクチノキは常緑で、花期が9~10月であることもあり、“属変”された。
最近は、多くの都道府県で絶滅が危惧されるようになってきた。神奈川県小田原市には国の天然記念物に指定されている巨木もある。
バクチに負けて丸裸?
「バクチノキ」の名前の由来は樹皮にある。特に6~7月の樹皮は、灰褐色でウロコ状に剥がれ、剥がれた跡が真っ赤な斑紋になる。見た目はなんだか痛々しい。その昔、博打に負けて身ぐるみを剥がされて丸裸になってしまった人の様子にたとえて名づけられたと言われている。
赤肌になることから「アコノキ」や「ハダカノキ」、猿が木に登ろうとしても木肌とともに滑り落ちることから「サルコカシ」と呼ばれることも。樹皮は、黄色の染料の材料にもなるという。
バクチで咳を止めていた
濃い緑の葉っぱは、採ってもんでみると、かすかだが杏仁豆腐のような香りがする。葉には「配糖体プルナシン」という成分が含まれていて、これを水蒸気蒸留してできた水、通称「バクチ水」は、かつて咳止め薬などに使われてきた。身ぐるみを剥がされたようで、実は、他人様に役立ってきたのだ。
不気味でも花は愛らしい?
秋に咲く花は、新枝の葉のわきから3~5センチの短い総状花序を出し、不気味な木肌からは想像できないほどの愛らしい白色の五弁花を多数つける。 バクチノキに近い仲間で、欧州東南部やアジア西部原産の「セイヨウバクチノキ」というのがある。こちらは花期が4月で、樹皮もボロボロに剥がれたりしない。バクチノキに比べると大きくなりにくい特性もあって、日本でも一時期から“本家”より人気が出たといわれるが、博打で負けても、イメージが悪くても、日本人としては在来種を応援したい。
(安藤 伸良)