自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能だ。
企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。
つれづれなるままに、今回は冬にこそ楽しめる植物の見方を伝授。想像力をかき立てられる「冬芽」とは?
思わず「空目?!」 植物が少ないはずの冬こそ面白い
指導員になって初めての冬に大きな発見があった。
春から夏にかけては、樹木や草木の花、実、タネ、秋には紅葉、多くの種類の昆虫やクモ、野鳥などが観察できて、観察会の材料には事欠かない。
ところが、冬は花も実もタネも昆虫も少なく、観察会のテーマを何にすればよいのか分からなかった。
頭を悩ませながら参加した先輩指導員の観察会で出会ったのが、「冬芽(ふゆめ)」だった。
冬芽を見れば樹木が見分けられる
冬芽とは、晩夏から秋にかけて形成され、越冬して、春になってから伸びて葉や花になる芽のこと。
冬の間は、落葉樹の枝先に春を待っている冬芽を見ることができ、樹木によってその形は違っている。
つまり、冬は裸になっている落葉樹の種類を識別することは他の季節と比べて難しいが、冬芽の形を観察することで樹木の見分けが容易になる。
また、葉が抜け落ちたあと(葉痕=ようこん)も個性的。葉痕とは、葉が抜け落ちたあとに残った痕跡で、大きな葉ほど葉痕も大きく、養分や水分の通り道(維管束痕=いかんそくこん)の数や配置によって、さまざまな形に見える。
防寒着はウロコか毛皮?
冬芽の形状には、大きく分けて2種類ある。
芽が、芽鱗(がりん)という鱗(うろこ)状のものに覆われている「鱗芽(りんが)」と、芽鱗に覆われていない裸の芽が「裸芽(らが)」。
それぞれ冬の寒さと乾燥から身を守るために樹木なりの工夫をしている。
鱗芽は、樹木によって覆われている芽鱗の数が異なっている。少ないもので1、2枚だが、多いものでは30枚にもなるものがある。一般的にはブナやミズナラのような寒い地方の落葉樹に多く見られる。ブナ科のアラカシ(写真②)は、常緑樹だが、赤みを帯びた卵形の冬芽が枝先に数個つくから分かりやすい。
裸芽は、クサギやエゴノキなどのやや暖かい地方の落葉樹に多い。
トウダイグサ科のアカメガシワ(写真③)のように細かい毛を被って寒さを避けているものもある。
鱗芽でも、モクレン科のコブシ(写真④)のように毛皮のコートを着ているように毛で覆われていて、実際の形や色が見えにくい場合があるから注意がいる。
花か葉っぱか両方か 行く末も分かる
また、冬芽には、春になって花になる「花芽(かが)」、葉になる「葉芽(ようが)」、花と葉の両方になる「混芽(こんが)」の3種がある。例えば、クスノキ科のクロモジ(写真⑤)の中央にある葉芽は細長く先端がとがっていて、周りの花芽は丸みのある球形をしている、といったように、葉芽と花芽が別々につくものは、それぞれの形に特徴がある。
クロモジの冬芽は、形が立教大学の「ユリの紋章」に似ているから覚えやすい。
動物の顔にも見える
クルミ科のオニグルミ(写真①)は、葉痕が羊やヤギ、センダン科のセンダン(写真⑥)の葉痕は猿といった動物の顔に見える。”樹木博士”になる第一歩として、寒い季節の散歩の途中に冬芽観察をお勧めしたい。
(安藤 伸良)