卒業生が母校のユニークな側面を語るコラム6校目は、宮崎県にある私立高校・鵬翔高校(宮崎市)について。
20年春に東大合格者を輩出した進学系の2学科に加え、工業・商業・看護の実業系3学科の計5学科8コースを束ねる手広い高校だ。
2022年には創立100周年を迎える。
サッカー部は全国から入部希望者が集う強豪。過去に10人以上プロを輩出している。現在浦和レッズでプレーし日本代表経験もある興梠慎三もその1人だ。
かつては地元民からヤンキー校というイメージを持たれていた。近年はヤンキーこそ見かけなくなったものの、幅広いジャンルの学科をそろえるため、生徒も教師もキャラクターが色とりどりだ。
激せまのグラウンドを斜めに走る50m走
初めて目にした時に誰もが目を疑った。
鵬翔のグラウンドは校舎の裏にある。そのため、体育の授業まで目にする機会はない。
春の恒例行事、50メートル走のタイム計測時には例年、新入生は一様に戸惑う。
そこにはグラウンドがないからだ。
正しくは“想像していた広さのグラウンド”がなかった。
校舎の各棟に囲まれ、運動場と呼ぶにはあまりにも狭い空き地は縦30m×横40mといったところだろうか。50mを走るためには対角線を突っ切るしかない。
狭くなった理由がある。
鵬翔はもともと1922年、日州高等簿記学校として設立された。1962年に現在の場所に移転。当初は商業系の学校だったが、看護、工業、進学系の学科新設に伴い、次々と各棟を建設した。限られた場所で増殖したためグラウンドはみるみる狭くなったという。
生徒のキャラが大渋滞
えてして高校にもなると、進路は専門的に分かれる。そのため全員同じとは言わないが、ある程度は似た学力・キャラクターの生徒が集まるものだ。
その点、鵬翔は進学系・実業系合わせて5学科8コースを設置していることから、とにかく幅が広い。例年、進学系学科は想像通りの真面目な学生、実業系はヤンチャな学生が多く集まる。特進英数科出身の筆者は角刈りで眼鏡をかけていた。見た目はもう、絵に描いたような”ガリ勉”だった。
所属していた硬式テニス部には全学科から部員が集まっており、丸刈り頭もいればリーゼントもいた。鵬翔を象徴するような部活動だった。
眼鏡をかけた角刈りガリ勉小僧とリーゼントのマイルドヤンキーが同じコートで共に汗を流す。そんな奇妙な光景は、ほかではなかなか見られないだろう。
もちろん校則はある。茶髪、パーマなどの“遊ばせた”髪は生徒指導の教師に見つかると、遊びに出かけたまま帰ってこないこともあった。
日本代表を輩出した名門サッカー部
宮崎県内には民放のテレビ局が2局しかない。NHKを除くと2チャンネルしか映らないため、リモコンのボタンはほとんど飾りのようなものだ。
民放の番組を見ている際、「反対にして」と言えば、おのずと「もう一方の民放のチャンネルに変えてほしい」を意味する。2択であるがゆえの意思疎通。実は似たようなことが県内の高校サッカーでも起こる。
地元民に「鵬翔高校といえば?」と尋ねると、「サッカー部」と答える人がほとんどだろう。現在は苦戦しているが、一昔前まで県内の高校サッカーは、必ずと言っていいほど鵬翔高校と日章学園の2校が決勝で代表を争っていた。「今年は日章がダメだった」と聞けば、鵬翔の全国大会出場を確信できたほどだ。浦和レッズの興梠慎三らプロ選手も10人以上輩出した。しかし、それでも全国大会では1回戦で敗退することも珍しくなく、全国制覇は夢だと思われていた。
(つづく=黒木 達矢)