【母校トリビア】OBが謙虚な愛を持って語る 東大合格者数No.1の「ざんねんなめいもん」~開成高校(東京)

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奥に見えるのが開成の校舎。左が中学、右が高校(写真:とちぎ/photoAC)


卒業生が母校のユニークな側面を語るコラム5校目は、私立開成高校について。

 

東大合格者数全国1位の超進学校、かつ2021年には創立150周年を迎える伝統校でもある。

初代校長は昭和恐慌から経済を立て直した高橋是清が務め、司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」に登場する共立学校が前身。俳句「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」でおなじみの正岡子規は卒業生だ。

 

全国にその名をとどろかせる開成は、各メディアで「勉強」「教育」について取り上げられてきた。憧れている人もいれば、ちょっと鼻につくと感じている人もいるだろう。

そんな”アンチ”派に朗報だ。開成だって1つの学校。100%完璧ではない。

 

このコラムでは20代OBが謙虚な愛を持って、いつも褒められてばかりの開成高校について、あえてちょっと残念な側面を冷静に紹介していく。

 

 

 

 

 

本当に「全国No.1」なのか

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開成が全国No.1の合格者を送り出す東京大学(写真:morit/photoAC)

アイデンティティにすらなりつつある「東大合格者数全国1位」という称号に一切の偽りはない。しかし、これをもって開成が「全国No.1」の学校だとするのは早計だ。

 

2020年の合格実績をもとに検証していこう。開成高校の2020年東大合格者数は185人。2位は筑波大学附属駒場高校(以下 筑駒)の93人だから、ダブルスコアに近い大差で開成は全国1位に君臨している。しかし、これには不利な内訳が隠れている。

 

まず、東大合格者数は現役の学生だけに加え、浪人生も含まれている。2020年合格者数のうち、開成は6人名は浪人生で、現役合格者は119人。全体の1/3以上が浪人生で、これは他校に比べて非常に多い。

長く勉強していれば有利なのは明白であり、浪人生は卒業後も開成で教育を受けていたわけではないため、この数字は開成の教育実績にとっては少々耳が痛い点と言える。

 

次に、全体の学生数だ。

開成高校は中高一貫校だが、中学で約300人、高校からさらに約100人が入学し、合計約400人の大所帯になる。これは有名私立でもかなり多い方だ。おおよそ筑駒は160人、灘は220人で、開成は倍近い人数を抱えていることになる。つまり、分母が大きく違う。

 

単純に考えれば学生数が多い方が有利であるため、開成は学校のシステム上、「合格者数」の競争では有利な位置にいるのだ。

 

「No.1」はこそばゆい

 

 

 

以上2点を踏まえれば、「全国No.1」の高校を決める指標として、少なくとも「東大合格者数」よりは「現役東大合格率」のほうがより確からしいと言えるのではないか。

情報を比較するため、以下の表にまとめてみた。

 

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 ※参照は下記

https://www.inter-edu.com/univ/2020/jisseki/todai/ranking/


現役東大合格率では、筑駒が圧倒的な1位になる。女子校の桜蔭が2位、開成は3位だ。また、関西に位置しており、そもそも東大を狙っていない学生が多いであろう灘高校にも肉薄されている。

数字の捉え方は非常に難しいが、このような見方をすれば開成は「全国No.1」ではなく「全国3、4番目くらい」の名門校というのが正確ということになる。

 

実際、多くの開成生がこの事実を受け入れており、「俺らが1番ではないよなあ」とぼんやり思っている。だから、開成が「No.1」と言われているのを耳にするたびに、何となくこそばゆい気持ちになっていたものだった。

 

立地は 麻布 桜蔭に完敗

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開成生がよく使用する西日暮里駅(写真:ponpokopon/photoAC)

 

 

 

開成高校は有名でも、どこにあるかまでは知らない人が多いのではないだろうか。場所は荒川区の道灌山という、山とは名ばかりのとても小さな丘の上にある。

 

東京にお住まいでない方にはピンとこないかもしれないが、荒川区と言えば、六本木を主軸とする港区、銀座を擁する中央区などと比べ、東京23区内では都会とは言い難い土地柄だ。

 

そして、最寄り駅である西日暮里周辺には何もない。ファミマと薬局、TSUTAYAがよく利用されていたくらいだろうか。

少し歩けばラーメン店や商店街はあるが、気軽に行くには少し遠い。カラオケに行くにも隣の日暮里か田端まで歩く必要があるから、高校時代はやたらと散歩していた記憶がある。

 

他の高校を見てみよう。まず、開成と並んで「御三家」に数えられる麻布高校。その名の通り港区麻布に位置している。麻布と言えば超高級住宅街。わが母校の立地とは雲泥の差がある。

 

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麻布高校のある麻布十番(写真:ジルバーナ/photoAC)

女子の名門では桜蔭高校。こちらは東大も位置する文京区本郷。近くには東京ドームをはじめ、娯楽施設があふれかえっている。

校則が厳しいため、あまり大手を振って遊ぶことはできなかったそうだが、在学当時は非常にうらやましかった。

 

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桜蔭の近く、水道橋駅前にある東京ドーム(写真:Heekun/photoAC)

ちなみに、筆者の妹は東洋英和女学院という高校に通っていた。

住所は何と港区六本木。

高校生当時、妹の定期券に刻まれる六本木の文字に目を疑った。

そんな場所に高校があるのか、と。

何を競っているわけでもないが、やはり西日暮里と六本木では完敗と言わざるを得ないだろう。

 

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東洋英和女学院がある六本木(写真:源五郎/photoAC)

開成のように周囲に刺激的な施設がないことは、親御さんにとってはかえって安心できる要素かもしれない。

しかし、通う本人にとってはなんとなく物足りなく感じるのも間違いない。東京の歴史ある名門とは言っても、その立地はちょっとションボリだったりする。 

 

幼稚園に負ける

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開成も幼稚園にはたじたじ!?(写真:YY&L/photoAC)

 

 

 

開成高校のお隣には幼稚園が位置している。開成の学園とはつながりはないが、道灌山のご近所さんだ。

 

少なくとも10年前、その幼稚園は領土拡大をしていた。新しい土地にサブグラウンドのようなものを作っていた。

当初はまったく気にしていなかったが、ある日先生からこんな話を耳にした。

「開成が買おうとしていた土地を幼稚園に買われてしまった」

そう、開成はお隣の幼稚園に先を越されてしまったのだ。

 

その話がどこまで本当か、両者の間でどのようなやりとりがあったのかは分からない。しかし、全国で有名な開成と言っても、地元ではその程度なのだ。

 

余談だが、その幼稚園の運動会は開成のグラウンドで行われている。一方、開成生が幼稚園の中に踏み入ることはできない。野蛮で危ないからだろう。

 

将来的に、もしかしてひょっとして、あるいはご近所の幼稚園によって開成が支配されるという可能性も捨てきれない。

 

それでも愛すべき母校

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「ペンは剣よりも強し」の精神は今も息づいている(写真:acwprks/photoAC)

以上、あえて開成のちょっと残念なところについて紹介してみた。

 

ここまで読んでくれた方は、私が母校を嫌いなタイプのOBだと思うかもしれない。そんなことはない。むしろ大好きだ。

 

「開物成務」「ペンは剣よりも強し」「質実剛健」「自由」。

開成が掲げる教育理念だ。私は自分が通った6年間で、開成の教育環境にはこれらがしっかり浸透していると感じた。

先輩から受け継ぎ、友人と切磋琢磨し、後輩に引き継ぐ。生徒が強制されることなく自ら行動を起こせる環境があるから、伝統がある。

 

残念な部分も含めて開成だ。

東大合格者数だけでしか知られていないのはもったいないと感じる。このコラムで少しでも開成に親しみを覚えていただけたら幸いだ。 

(mimiyori編集部 PN:権田卓也)

 

 

 

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