企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「食虫植物」を紹介する。
植物と昆虫の関係といえば、昆虫(成虫、幼虫)が植物の葉や実をエサとして食べる場合がほとんどだが、ここで取り上げる食虫植物はちょっと違う。光合成で自ら栄養分を作る点では他の大部分の植物と同じだが、土壌中の窒素、リン、ミネラルなどの栄養分が不足している湿原や湿った荒地では、葉や茎などを変形させ、近づいてくる昆虫など小動物をパクリ。捕食し、溶かして消化し、その養分を吸収して栄養を補っている。
日本では数が少なく、自生のものにはなかなかお目にかかれない。筆者もこれまで各地を歩いてきたが、自生の食中植物に出会ったことはわずかしかない。
甘い粘液で絡め取るモウセンゴケ
「モウセンゴケ」は、モウセンゴケ科の多年草で、日当たりのよい湿地に生える。北海道、本州、四国、九州に分布している。
花期は6~8月で、直径約1センチの小さな白い花を付ける。
卵状円形の葉は長い柄があり、多数の紅紫色の腺毛が生える。その腺毛の先端から甘い香りのするねばねばした粘液を出して小さな昆虫を捕らえる。
日本の代表的な食虫植物で、これまでに筆者が出会った数少ない自生の1つ。この後に紹介するものは、いずれも植物園などで撮影したものになる。
スミレじゃないよ ムシトリスミレだよ
「ムシトリスミレ」は、タヌキモ科の多年草で、北海道から四国の亜高山や高山の湿った所に生える。
花期は6〜8月。花茎は先端が下を向き、その先に横向きの紫色や白色のスミレに似た唇形花をつける。
モウセンゴケと同じように、長楕円形の葉の表面は粘液の球を付けた細い腺毛で覆われていて、粘り付いた虫を離さず消化吸収する。
カエルも落ちるウツボカズラ
「ウツボカズラ」は、ウツボカズラ科の常緑性つる植物で、東南アジアに広く分布している。20世紀初めに日本に渡来した。
下部の葉から生じる捕虫袋は、つぼ状で下が丸くふくらんでいる。虫にとっては、いわゆる“落とし穴”。袋の中に消化液を含んだ水をため、虫が来るのを待っている。袋の中には虫だけでなく、ネズミやカエルが入っていることもあるというから、ワナの威力に驚かされる。
高度なセンサーを持つハエトリグサ
「ハエトリグサ」は、モウセンゴケ科の多年草で北米原産。
花期は5~7月で、花茎の先に白花を数個付ける。また、4~10数枚の葉をロゼット状につけ、細長い軍配形の葉柄の先に「捕虫葉」と呼ばれる二枚貝のような形の葉を広げる。
捕虫葉の内側には片側にトゲのような感覚毛と呼ばれるセンサーが生えており、獲物がこのセンサーに短時間で2回以上触れると二枚貝状の葉が素早く閉じ、獲物を捕まえる。虫を捕えると、24~36時間後に消化液が出て、食べた虫にもよるが、3~10日ほどで消化吸収されるという。
入ったら絶対に出られないサラセニア
「サラセニア」は、サラセニア科の多年草で北米原産。主に湿原に生える。
花期は3~5月。初夏にかけて花茎を伸ばし、先に赤、ピンク、黄色などの花を1つ付ける。
春と秋に伸びる筒状の捕虫葉の表面には蜜腺があり、昆虫などをおびき寄せる。筒の内側はすべりやすく、しかも毛が下向きに逆立って生えていて、1度筒に入った獲物は上って出られないような怖い仕組みになっている。
(安藤 伸良)