企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「水辺や湿地の花」の中編を紹介する。
水辺の花といえばミズバショウが定番だが、他にも色とりどりの野生の花が季節ごとに咲いている。多くが環境の変化で全国的に減少しているといわれているため、温かい目で見守ってみよう。
茎が白骨に見えるコウホネ
「コウホネ(河骨)」はスイレン科コウホネ属で、全国の湖沼や池、川などに群生する抽水性の多年草。
水深の深い場所では水面に葉を浮かべる。水底を這うように横へ広がる白くゴツゴツした感じの太い地下茎が、白骨に見えることから名付けられた。
花期は6~9月で、水面から突き出た花柄に黄色で直径4~5センチのお椀型の花を咲かせる。花の中央部(柱頭盤)が紅色のものは「オゼコウホネ(尾瀬河骨)」と呼ぶ。
氷河期から生き抜くミツガシワ
「ミツガシワ(三槲)」はリンドウ科ミツガシワ属の多年草で、北海道、本州、九州に分布している。
ミツガシワ属には、この1種しか存在せず、氷河期の生き残り(残存植物)の1つといわれている。残存植物とは、かつては大量にあったものの、環境の変化により大半がなくなってしまった植物のこと。
花期は5~8月で、葉の間から花茎を伸ばし、茎先に白色の直径1~1.5センチの花を総状につける。花弁は5枚あり、内側に縮れた毛が密生する。
名前の由来は、3枚ある葉の形が「柏の葉」に似ている、または家紋の「三柏」に似ているというところからきている。 「丸に三柏」の家紋は山内一豊が用いていた。
仏塔最上階に咲く?クリンソウ
「クリンソウ(九輪草)」は、サクラソウ科サクラソウ属の多年草。日本の固有種で北海道、本州、四国に分布している。
名前は、段になって輪生する花の様子を、仏塔の先にある装飾「九輪」に見立てたことが由来。別名をナナカイソウ(七階草)や、シチジュウソウ(七重草)ともいう。
花期は5~6月で、40~80センチの花茎に紅紫色の花を3~5層に輪生する。花色はまれに淡紅や白がある。筆者はその珍しい白の撮影に成功した。
決して腐っていないクサレダマ
「クサレダマ(草蓮玉)」は、サクラソウ科オカトラノオ属の多年草。北海道、本州、九州に分布し、湿原の周辺や沼沢地に生育する。
カタカナ名だけ見聞きすると「腐れ玉」と思いがちだが、欧州原産のマメ科の低木「レダマ(蓮玉)」に似ていることから名付けられた。
花期は7~8月で、草丈が40~80センチになり円錐花序に黄色の花を付ける。花の直径は12~15ミリと小さい。花の色から、別名は「イオウソウ(硫黄草)」。
夏に柿色の花を咲かせるカキラン
「カキラン(柿蘭)」は、ラン科カキラン属の多年草。日本各地の湿地で見られる野生のランで、日本人好みの落ち着いた雰囲気が特徴。
花色が柿の実のオレンジ色に似ていることから名前が付いた。
花期は6~8月で、茎先に10個ほどの橙黄色の花を付ける。下方から開花していき、花の唇弁にある紅紫色の模様が目立つようになる。
(安藤 伸良)