企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「香りのよい木、臭気のある木」の後編を紹介する。
コロナ感染症の拡大が続いて外出の際にはマスクを着用し、最近は自然の香りや匂いを感じる機会が少なくなった。本来、四季を彩る花木は見るだけでなく、香りも併せて楽しむもの。残念ながら写真では香りまで届けることができないが、ほんの少しでも読者の皆様の癒しになればと願う。
珍色の実がなるムラサキシキブ
「ムラサキシキブ(紫式部)」は、シソ科ムラサキシキブ属の落葉樹。北海道南部から沖縄、中国、台湾に分布している。
花期は6~8月で、葉の根元から花序を出し薄紅紫色の花を付ける。花の時期には、ほのかに甘い香りがする。
果実は小さく紫色に熟す。紫色の実をつける植物は少なく、この果実を紫式部に例えて名付けられたとされる。
高級爪楊枝に使われるクロモジ
「クロモジ(黒文字)」は、クスノキ科クロモジ属の落葉樹で、東北地方から九州北部にかけて分布している。
花期は4月。芽吹きとともに、黄緑色の小花が集まって咲く。
日本固有種の香木の代表格で、枝を擦って匂いを嗅ぐと爽快感のある香りがする。高級爪楊枝の素材として使われ、アロマオイルや化粧品にも利用されている。
ガス漏れと勘違いされたヒカサキ
「ヒサカキ(姫榊、非榊)」は、サカキ科ヒサカキ属の常緑樹。青森県を除く本州から沖縄に分布している。東日本には神事に使われるサカキが少ないため、その代用として枝葉が使われる。
花期は3~4月。葉の根元にやや黄色を帯びた白い壺型の花が下向きに咲く。
花の時期にはガスに似た強い臭気を放ち、ガス漏れと勘違いして通報してしまった人がいたこともあるとか。この強烈な匂いは、春先の昆虫が少ない時期にいるハエを呼ぶためではないかといわれている。
花は香り、葉はクサいクサギ
「クサギ(臭木)」は、シソ科クサギ属の落葉樹。北海道から沖縄に分布している。
花期は8~9月。枝先や葉の根元に花序を出し、白い芳香のある花を付ける。よくアゲハ蝶が吸蜜に訪れている。
一方、葉には強い独特の臭気があり、これが名前(臭木)の由来。葉の強い臭いが苦手と感じる人も平気という人もいるため、皆さんもぜひ匂いを嗅いでみてください。
果実は10~11月に藍色になり、周りを赤く派手なガク片で囲むことで鳥にアピールしている(二色効果)。藍色の果実は草木染に使われる。
木全体に臭気があるコクサギ
「コクサギ(小臭木)」は、ミカン科コクサギ属の落葉樹。本州、四国、九州に分布している。
花期は4~5月で、葉の根元に淡黄緑色の小花を付ける。
木全体に独特の臭気があるが、クサギ(シソ科)とは異なり、コクサギ(ミカン科)の匂いはそう悪くない(と思う)。
(安藤 伸良)