パラリンピックにも、“日本のトビウオ”と評される選手がいる。
全盲クラスのパラ水泳選手、「世界のキムラ」こと木村敬一だ。
2008年北京パラリンピックから3大会連続で日本代表として参加し、合計6個のメダルを獲得した日本のエースだ。
16年リオでは50メートル自由形、100メートルバタフライで銀、100メートルは平泳ぎ、自由形で銅メダルを獲得。東京パラリンピックで悲願の金メダル獲得が期待されている。
すごい選手であることはもちろん、木村にはさらに「面白い」という形容詞もついてくる。
選手の素顔を知れば、競技にも興味がわくパラアスリート連載、第1回は「ストイックなアスリートの素顔は にこやかな根っからの関西人⁉」木村敬一について。
※記事再掲
Twitterににじみ出るユーモア
まずは、あるツイッタラーさんについて最近の投稿を見ていこう。
2020年12月11日には
牛タン屋と思って自信満々に定食頼んだけど、単品しかないとか、お肉こちらで焼きましょうか?とか、そっちで焼くに決まってるだろとか思って、どうも話かみ合わなかったところで、たまたま同じビルの同じ階にある焼肉屋にいることが発覚したが、もう引けないので、思いがけず初の一人焼肉となった
— 木村 敬一 / Keiichi Kimura (@kimurakeiichi) December 11, 2020
とつぶやき、同年9月30日には
アメリカで「日本のどこからきたの?」と聞かれたとき、滋賀県って言っても分かってもらえないから、京都ってことにしてた。最近アメリカ人から、「確かこの人も京都出身だよ」って紹介された人がいたんだけど、その人も実際は滋賀県民だった。皆、さば読んでる。 #滋賀県あるある
— 木村 敬一 / Keiichi Kimura (@kimurakeiichi) September 30, 2020
とつぶやく。
さらに20年春の新型コロナウイルス感染拡大防止による自粛期間中には、なるべく楽しく練習に立ち向かう様子がアップされた。
Facebookに載せたプッシュァップチャレンジの動画が、なかなかに好評でうれしくなったので、こっちにもあげることにしました pic.twitter.com/veD1UzNign
— 木村 敬一 / Keiichi Kimura (@kimurakeiichi) May 9, 2020
何とも言えないノリと言葉で、日々の生活をユーモアたっぷりに発信してくれる。
このチャーミングな人柄があふれ出て止まないツイッタラーこそ、木村敬一なのだ。
思わず笑顔になってしまう投稿は、木村本人が音声ソフトを利用して書き込んでいるとか。
全盲であること(滋賀県出身であることも)をジョークに織り込みつつ、読者を不安にさせない絶妙なセンスが心地いい。
「note」でさらに抱腹絶倒
さらに自粛中にやることがなくて始めたというのは、ソーシャルメディア・プラットフォーム「note」での発信だ。
18年から水泳の強豪国・米国に留学していた2年間の経験を赤裸々に、ツッコミ多めで語っている。
自由すぎるトレーナーTonyとのやりとりは抱腹絶倒。日本から木村に取材が来た時には、Tonyの方がノリノリで、ピンマイクで熱唱していたり、いつもよりトレーニングが多かったりしたとか。
留学中は、元メジャーリーガー・上原浩治氏の現地自宅にホームステイしたこともあったそう。
コロナ禍でアメリカから帰国するまでの心境の変化も、すべて記されている。
「書き物って楽しいな」という彼の文章には飾らない本音が記されていて、だからこそ健常者と障害者の垣根なんてスッと飛び越えて、読者も共感したり、笑ったり、ツッコんだりできる。
ハンパない愛され力
その人柄はTwitter上だけでなく、実際にもチャーミング。
同じ視覚障がいクラスで、16年リオまで毎日一緒に練習していたパラ水泳・富田宇宙いわく、木村は「愛されすぎて恐ろしい男」だという。
競技に対してはストイックだが、普段は笑顔を絶やさず、相手を笑いで包み込む。
そんな彼の周りには自然と人が集まり、周囲の人にもっと支えたいと思わせてしまうのだ。
必殺“愛され力”の威力はハンパではなく、彼の持ち物の9割は周りの人からのプレゼントだという。
みんなが何でもしてあげたくなってしまい、ふと気がつくと引率から恋愛相談まで何かと面倒を見るマネージャー状態に陥るのだ。
当の本人は「いや、分かんないスけど、んー、みんな優しくしてくれます」。
愛され力を知りたい方は、ぜひ彼のTwitter、noteを一読することをお勧めする。ハマってしまい、一読では済まないはずだ。
ブラインド界の挑戦「お化け屋敷」潜入
さらに、木村と富田は「暗闇で生活している視覚障がい者は、お化け屋敷の暗闇を怖いと感じるのか」を検証しようと、2人でお化け屋敷に潜入したことがある。
木村は事前に大見えを切ったという。
「僕はね、指鳴らしの反響で空間を把握して暗闇を進むことができるんだよ。ここは僕に任せて」
大人気漫画「ゴールデンカムイ」の登場人物ばりの能力をアピールし、頼もしげだった。
いざ中に入ると、展示物に突入したり、道なき道を行こうとしたり。最終的には当時、富田のわずかな視力で先導したのだそう。
いつもにこやかで、たくさんの人に囲まれて、メダルも獲得して。
しかし、彼は満足していない。
日本選手団最多の4個のメダルを獲得した16年リオパラリンピック、閉会式の真っただ中、ヒーローの姿は選手村の自室にあった。
15年世界選手権は2個獲得した金メダル、そして迎えたリオでも獲得できたはずの金メダルは、彼の手にはなかった。
(つづく=mimiyori編集部)
※これまで取材した内容を再編集して掲載。