【ビジネス】経営哲学=秋山木工 時代錯誤と笑うことなかれ 丁稚制度が一流家具を生む②

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(写真はイメージ=iStock/DuncanL)

これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラム。

 

秋山木工は迎賓館、国会議事堂、一流企業などで使われる特注家具を製作している。年商は20億円。創業者であり、代表取締役社長の秋山利輝は、重厚感のある家具作りだけでなく、江戸時代に盛んだった丁稚制度、徒弟制度による職人育成で話題となってきた。住み込み、丸刈り、携帯禁止…。働き方改革の波に逆らう教育方針で、13年には研修生が技能五輪全国大会で金、銀、銅メダルを独占した。気休めの優しさは長期的視点に立てば、いったい誰のためになるのか。厳しいながらも、着実に職人と人間性を育て上げている自負がある。第2回は秋山木工の立ち上げ、方針について。

 

 

 

自宅をなげうって秋山木工設立

新天地には「名人」と呼ばれる職人が10人もいた。入社1年後には松坂屋新装オープンの仕事が舞い込み、秋山は四輪の免許を持っている唯一の職人として、親方と職人の送迎を含めた徹夜生活を送った。その松坂屋のオープン後、自分が便利屋で終わることが怖くなり、知人デザイナーに「僕、東京へ腕試しに行った方がいいですかね」と尋ねた。「そりゃあ、そうだろう」の返事に、秋山はとっさに右手を差し出し「じゃあ、電車賃ください。今日これから行って、雇ってくれるところを探してきます」。同デザイナーは電車賃をくれただけでなく、知人を通じて東京の会社を紹介してくれた。

50~70歳のベテラン職人が揃った東京の会社では入社半年で稼ぎ頭になった。その後、当時の大手デパートの特注家具部門へ移籍し、東京で出会った妻と結婚。妻の妊娠を機にマイホームを購入したが、直後にまさかのクビになった。その理由が「残業をしないから」。それならそれで「絶対に後悔のない人生を送ろう」と27歳だった1971年に、デパートの仲間と川崎市に「秋山木工」を立ち上げた。創業スタッフは自分を含めてわずか3人。手元資金がなかったため、「5年後には必ずこの倍の大きさの家を買う」と妻に約束して、購入したばかりの自宅を売却した。

丁稚を復活させる

当時は、高度経済成長期。大量生産、大量消費が当たり前になりつつある時代だった。手工業が大きな転換期を迎える中、秋山は「技術はもちろん、今後は人間性を備えた職人が求められる」と考え、駆け出しの自分が経験した「徒弟制度」が若手教育に最適だと考えた。自分を育ててくれた制度を受け継ぎ、次の世代につなげたいと思った。

「親方が50年間培ってきた技術から礼儀作法まで、何から何までわずか4、5年で伝授してもらえるのだから、これだけ効率的なやり方は他にない」

「お客様から注文をいただいたら、『はい、分かりました。喜んで作らせていただきます』と謙虚にお受けして、しかも誰にも負けない素晴らしい家具を作れる人を育てたい」

 

自己紹介できなければ門前払い

事務所には「秋山道場」という木彫りの看板を立てた。毎年、男女比ほぼ同数の2~10人の新人を採用。厳しい丁稚生活をまっとうしてもらうため、入所前の面接は特に重要視する。一般企業であれば30分程度で終わる面接を、少なくとも3時間は実施。工場見学もさせ、すでに入所している先輩丁稚とも話をさせる。

毎年3月末、白シャツに黒やグレーのスーツでやってくる新人を応接室に集めて、最初に行うのが自己紹介。①名前、②出身地、③卒業した学校、④年齢、⑤家族構成、⑥8年後の自分の姿、⑦なぜ秋山木工に就職したのか、⑧将来の目標、を大きな声ではっきりと言わせる。

ぼそぼそ話したり、秋山の目を見ずにうつむいたり、おかしな言葉遣いであれば、すぐにやり直し。自分が話すだけでなく、相手の話を聞いて覚える訓練として、仲間が話したことを覚えて記憶しているかも試す。何回も自己紹介しているうちに、髪を触ったり、足をぶらつかせたり、時計を見たりと集中力が途切れてくれば、また容赦のないゲキを飛ばす。

携帯も恋愛も禁止、風邪をひけばクビ

新人は「秋山学校」で1年間の丁稚見習いとなり、さらに4年間の丁稚生活を経て、1人の職人として扱われる。5年間は寮生活で、休日はあるが、プライベートはないに等しい。

家族と会えるのはお盆と正月の帰省時のみで、丁稚と呼ばれる期間は携帯電話もメールも禁止。恋愛も禁止で、発覚すれば即クビ。風邪をひいてもクビ。厳しさに耐えられず、脱走した丁稚もいた。
 
毎朝5時に起床して、1.5キロの町内ランニングで1日が始まる。秋山が見守り、弟子の体調を見極める。仕事前には、工場内や近所を念入りに清掃。朝礼では秋山が作った社訓でもある「職人心得三十箇条」を唱和する。新人は早朝起床で20人分の朝食作りが日課。好き嫌いは禁止で、苦手なものが出てきても食べなければいけない。残す場合は、「残してすみません」と謝る。
(③につづく)  

 

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