読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
2022年は6月末から早くも記録的な暑さとなり、サイクリングするのも身の危険を感じるほど。そんな時でも、ふとトンネルに入るとひんやりする空気に助けられることがよくある。
というわけで、今回は東京の片隅、武蔵村山市にある自転車用トンネルを走ってみた。
真っすぐ伸びる自転車道~この道は何の跡?
目指す自転車用トンネルは、東京郊外の狭山丘陵のふもとにある。
地図アプリを見ると、トンネルは「野山北公園自転車道」なるものの一部のようなので、まずは東西に伸びる自転車道の西の端に向かう。
米空軍横田基地の東側、住宅街の中にその自転車道の端っこがある。この日もすごく暑く、ここに来るまでも35℃前後の気温と強烈な日差しでスマホがオーバーヒートして、写真を撮ろうにも撮れずに20分ぐらい立ち往生してしまった。
なんとか日陰でスマホを冷まして写真を撮り、東に向かって一直線に伸びる自転車道に入っていく。
しばらく走ると並木道になり、自転車道も木陰になってだいぶ涼しく感じる。どうやら桜並木のようで、春にはお花見も楽しめそうだ。
走り始めてすぐ、この自転車道の正体がわかった。道端に「軽便鉄道跡」という標識が立っていて、その説明によると、もともとは山口貯水池(狭山湖)堰堤の建設資材を運搬するトロッコ列車の工事用線路で1932年(昭和7)頃まで利用されていたという。
この線路は羽村取水堰付近の砂利採石場から最長で約12.4kmあったが、現在はその中で武蔵村山市内の部分が自転車道となっているようだ。
地元の人たちの通勤通学、買い物などにも便利そうで、沿道にはベンチ、小さな公園や公衆トイレも点在している。
トンネルに近づくと冷気がお出迎え→いざ納涼!
残堀川や新青梅街道、青梅街道などを、川や大小の道を渡りながら約2.7km進むと、目指す「横田トンネル」が見えてきた。幅は狭く、長さも短いようで入り口から出口の明かりも見えている。
狙い通り、トンネルに近づくと冷蔵庫を開けたような冷気がふんわりと漂ってくる。ちゃんと測ってないけど、体感は20℃くらいかな。
数日前の雨の影響か、トンネルの路面は一部濡れていて、中を走っていると天井からも時々しずくがポタッと背中や首筋に落ちてくる。
このトンネルは複数あって、横田トンネルを出るとほんの数10m先に次の「赤堀トンネル」が見えてくる。中の様子は、先ほどのトンネルとさほど変わらない。
続いて3つめの「御岳トンネル」も中は同じようにひんやりとした雰囲気だが、出口の先は森に囲まれている。
幻の5本目のトンネルが見たくて...悪路ニモマケズ
その先へちょっと進み、車道にぶつかったところで左折すると、4番目にして最後の「赤坂トンネル」へと入っていく。
右折する道のほかに、真っすぐ伸びている細い道があり、その先に5つ目のトンネルがあるらしいので、自転車を降りてちょっと探検してみる。
ほんの数10mだが来なきゃよかったと後悔するぐらいの悪路で、その先に5番目のトンネルがあった。
入口は金網で厳重に封鎖され、入ることができないが、金網の隙間からのぞくと出口の明かりが見えるので、ここもそんなに長いトンネルではなさそうだ。
足元に気をつけながら、先ほどの分岐点まで戻ると、ちょうど僕とは逆方向から来ていたロードバイク乗りのおじさんと遭遇し、「この先、何かあるんですか」と聞かれた。
「もうひとつトンネルがあるんですけど、ぬかるんでて蜘蛛の巣も多くて…」
「ホントだ。クツ、ドロドロですね。じゃあ、やめておこう。こっちも結構ぬかるんでますよ」と背後を示し、横田トンネルの方へ向かっていった。
ちなみに僕はロードシューズから携帯用のアウトドアシューズに履き替えていたので、被害は最小限だった。
トンネル区間を抜けて~多摩湖と狭山湖へも足を延ばそう
おじさんが来た右の道に進もうかと思ったけど、ぬかるみの中を自転車で入っていくのはちょっと気が進まなかった。
この先、自転車道はもう1回右折して、先ほどの車道に合流するようなので、横田トンネルを戻って、自転車道の反対側の入り口を探してみる。そこは住宅の脇道で、舗装がガタガタの10%ぐらいの坂を上った先で未舗装区間になっていた。
先ほどの5番目のトンネルの出口も気になったので、多摩湖の方へ回って探してみたがよくわからなかった。立ち入り禁止のエリアもあるようなので、深入りはやめておく。
最後に、軽便鉄道が頑張って資材を運んだ多摩湖や狭山湖を眺めてみる。
結局、涼しいトンネルの中を体験したのはほんの一瞬で、大半はずっと猛暑の中を走っていたけど、ちょっと不思議なエリアを走ってなかなか楽しかった。
(光石 達哉)