自転車ロードレースは本場ヨーロッパのシーズンが終了したが、10月後半は日本で2つのビッグレースが開催される。ジャパンカップサイクルロードレース(栃木県宇都宮市、10月18~20日)とツール・ド・フランスさいたまクリテリウム(埼玉県さいたま市、10月27日)だ。どちらもヨーロッパのトッププロ選手が多数来日し、10万人前後の観客を集める。
自転車ロードレースの魅力のひとつと言えば、選手と観客の近さだろう。目の前、数10センチのところをトップ選手たちが駆け抜け、真剣勝負を繰り広げる様子は、他のスポーツではなかなか味わえない迫力だ。
海外ビッグレースは山岳コースの観客熱狂
特にツール・ド・フランスをはじめとする海外のビッグレースでは、アルプスやピレネーなどの山岳コースでの観客の熱狂ぶりがすごい。
上り坂では必然的に選手のスピードが落ちるので、興奮して選手を追いかけがら声援を送る観客もたくさんいる。コースをふさぐように観客が押し寄せ、選手が通る時だけモーゼの十戒のように道が開けることもある。時には観客とぶつかった選手がケガしてリタイアしたり、頭に血が上った選手が観客に殴りかかったりなんて目も当てられない場面も怒ったりする。
「熱狂」は時にトラブルの原因に
有名なシーンが、2016年のツール・ド・フランスであった。山岳コースで観客が道をふさぎ、中継用のテレビカメラを積んだバイクが立ち往生。そこに、直後を走っていた選手たちが次々と追突して落車した。この年の優勝候補筆頭クリス・フルーム(イギリス)もこのアクシデントに巻き込まれ、さらに自転車も壊れてしまった。なすすべがなくなったフルームは自分の足でコースを走り出し、チームカーが予備のバイクを用意するまで走り続けたのだ。
もちろんこうしたトラブルは歓迎できないが、熱狂的な応援もスポーツの醍醐味のひとつだなと個人的には思ったりする。
マナーがいい日本流応援
そんなヨーロッパの観客に比べると、日本のファンはとてもマナーがいい。ジャパンカップにも古賀志林道という上り坂の勝負どころがあるが、選手を追いかけるような観客はまず見たことはない。それどころか選手の集団が来る前に、関係車両がコースに現れると「クルマ来るよー」と声を掛け合い、コース上に出ていた観客はおとなしくコース脇に身を寄せ、そこから選手たちに声援を送る。
なんでもありの熱狂的なヨーロッパ流の応援も、マナーがいい日本流の応援も、どちらにもいいところはあると思う。
東京五輪は「バランスのとれた応援を」
2020年の東京五輪の自転車ロードレースのコースは、東京・府中をスタートし、富士山の麓を抜けて、最後は富士スピードウェイにゴールする。2019年7月にはそのテストイベントが行われたが、富士山周辺の峠道は安全のため観客の立ち入りを禁止した。
しかし、観客のいないところを走るのは選手にとっても味気ないだろうし、ファンも世界最高峰の戦いを自分の目に焼き付けたいだろう。来年の五輪本番では沿道での応援が許可されることを願うし、選手たちが持てる力を存分に発揮できるように熱狂とマナーのいいバランスがとれた応援がされることを同時に願っている。(光石 達哉)