スペイン強化拠点はエリート限定
スペインのナショナルトレーニングセンターである「ハイパフォーマンスセンター(Centre d’Alt Rendiment:CAR)」は、バルセロナ市内から約20キロの郊外サン・クガ(Sant Cugat)にあり、五輪、パラリンピックすべての競技に対応している。利用できるのは、各競技の代表クラスのトップアスリート、もしくは将来の代表が期待されるジュニア選手限定。新型コロナウィルス感染がまだ爆発的に起きていなかった20年3月初めには、20年東京オリパラの公式マスコットである「ミライトワ」と「ソメイティ」が宣伝活動の一環で訪問している。
障がい者雇用の工場跡地
1992年バルセロナ大会に向けたスペイン代表の強化拠点として、87年に設立された。広大な敷地は元々、身体に障がいのある人々を雇用していた工場跡地だった。「32種」といわれる施設が設置され、陸上用トラックなどの一般施設から、テコンドーや柔道、フェンシングやグラスホッケースタジアムといった施設までが完備されている。サッカーは、アルゼンチンやボリビアなどの代表チーム、スイスやスコットランドのクラブチーム、日本からも横浜マリノスが使用した例としてパンフレットに紹介された。
小中高の学校併設
同施設内には居住スペースがあり、最大325人の居住、宿泊が可能。小学校、中学校、高校までの教育施設(学校)も併設されていて、ジュニア選手は競技中心の生活を送りながら、普通教育を受けることができる。
また、科学的トレーニング、栄養士による食事の管理、医療、メディカル心理学者によるカウンセリング等を受けることにより、トップアスリートとしての精神・技術を学んでいく育成方法となっている。ジュニア選手の多くは親元を離れ、国からの奨学金、または、各競技団体からの奨学金などによりこの施設内で生活を送っている。
日本人指導者もいる
選手育成だけではなくエリートコーチの育成も行っている。コーチ育成には、スペイン国内だけでなく、国外からも積極的にトップコーチ育成スタッフを受け入れ、世界水準のコーチ育成に努めている。
17年10月には、アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)の元日本代表選手で、引退後は指導者として国際的に活躍する藤木麻祐子氏を、スペイン代表チームのヘッドコーチに招へい。現在はCARを拠点に、同代表の強化に励んでいる。19年初めにパリで開催されたワールドシリーズでは合計5つのメダルを獲得するなど、東京五輪に向けて勢いをつけている。
フランスのトレセンは「特別高等教育機関」
フランスの現在のナショナルトレセンにあたる「フランス国立スポーツ体育研究所(INSEP)」は、2009年に「国立スポーツ研究所」と「体育・スポーツ教育師範学校」を統合する形でリニューアルされた。スポーツ担当省の管轄下に置かれた公的施設法人であり、特別高等教育機関に位置付けられている。12年ロンドン五輪でフランスが獲得した総メダル数の約半分は、INSEPを拠点としている学生アスリートだった。
複数の医学研究所併設
INSEPは、学業、トレーニング、スポーツ医・科学を融合したフランスを代表するエリートアスリートの強化拠点。トップクラスのスポーツに関連する指導者養成や研修教育を行うとともに、フランスの強化拠点としてトップ選手を集め、フランスを代表する選手を養成している。10年末からは、オリンピック・パラリンピック準備部門を統合したスポーツ政策調整担当局が、スポーツ省スポーツ局、ならびにフランス・オリンピック・スポーツ委員会と協力し、国際レベルで活躍するアスリートの支援を行っている。同施設内には、スポーツ生物医学・免疫学研究所などの医学研究施設も併設されている。
入学は超難関
INSEPでのトレーニングに参加するのは容易ではない。選手の実力とプロフィールに基づき、スポーツ連盟からの推薦によって選抜される。常時、約700人の選手がトレーニングを行っており、そのうち約150人が未成年者。コーチの数は約200人にのぼる。
莫大な財源があてられる一大事業
フランスにとっては、国を挙げての大プロジェクトといえる。INSEPの任務は、「スポーツ及び身体活動の振興に関する国の政策、特に、高水準スポーツ分野に参画し、スポーツ選手の健康保護と、スポーツ倫理の保全に貢献する」こと。財源は、国及び地方公共団体からの交付金、公的機関、国外公的機関、国際公的機関からの補助金で、他にも、サービス利用者からの支払いや分担金、企画運営する研修、会議、セミナー、イベント、サービスによる収入があてられる。さらに、契約、資金運用、権利譲渡、出版、研究・開発などによる収入や、寄付、贈与、譲渡、支援、職業訓練、あるいは、生涯教育などによる収入、賃貸料収入を含む不動産収入などで支えられている。
(mimiyori編集部)