【連載「生きる理由」62】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「柔道がうまくなる・強くなる話」②~量から質を生み出す

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2019年世界選手権の直前合宿で、キルギスの総監督として日本合宿していた当時の内柴正人氏(撮影:丸井 乙生)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「柔道がうまくなる・強くなるための話」②。

 

どうしたら強くなることができるのか。
そう聞かれた時、内柴氏は一見遠回りのようでいて、一番の近道について説明する。
「技」は試合で瞬時に体が反応するには、反復練習しかない。
「体」は反復を身につける体をつくるにはトレーニングは必須。
そして、「心」は「自分で考える」こと。

 

強くなるための「心技体」の整え方をつづった。

第2回は、量から質を生み出す重要性について。

 

 

 

全体練習でも自分で工夫できる

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キルギスに初めて行った当時。選手たちは内柴氏(前列中央)を大歓迎で迎えた(写真:本人提供)

練習で何をするか。その大枠はチームが作るものでしょう。練習の時間、内容くらいかな。
細かいチームでは、シチュエーションもやるでしょう。

でも、掛ける技、スタイルまでは決めてくれないように、練習には自分で自由にやれる部分があります。
この部分を先生やコーチは選手任せにしますし、選手は先生に決めてもらいたいと考える。

何かの技で、自分がそれを出来ない理由を習ってないとします。
そうすると、お互いに人のせいにするものです。
負けた時は特にね。

この部分は致し方ない。先生も知らないんだから。
しかし、僕はこのことを誰に習ったのでしょう。最近、それで悩んでます。
なぜ、僕は知っているのだろうか? 誰に習ったの?
まあ、いいや。
僕から下には僕が教えてやる。そんなふうに思っていて、今は風呂屋なんですけどね。

 

いろんな人から習うべし

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キルギス総監督時代、合宿場所を引き払う時も、内柴氏(左)は率先して掃除(撮影:丸井 乙生)

一番はいろんな人から習うこと。

得意技を作ったら捨ててを繰り返し、いろんな技を勉強して、何でも屋さんになることが最終的に早いです。

人っていつか柔道を辞めるでしょ。親になりコーチになり、先生になる人もいます。

 

若い時に柔道をしていて、大人になって辞める人は柔道に詳しくない人。

自分の子どもにやたら厳しく、ぶん殴ってでも鍛える人は柔道を知らない人なんです。

 

子供の不器用さにいら立ち、当たるように教えるなんて悲しいよ。

だから、すべての柔道してる人に技術を覚えて欲しい。

それだけなんです。

 

試合で勝つために出来ることしかしてきていない人。

こういう人を僕は高校、大学までに追い抜いてきましたし、気がつけば、子どもの頃に僕が柔道で勝てなかった人、憧れた人は柔道を辞めていました。

 

大人になって柔道で遊べる友達っていないものですね。だから、僕の友だちは現役選手になってしまっています。

 

トレーニングは体力次第で負荷を軽く

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〝学生弟子〟のトレーニングを見る内柴氏(撮影:丸井 乙生)

5種目のトレーニングがあるとします。
体力がない子が、1から5までのメニューをこなすのに3時間かかるしたら、スピードも遅くて、負荷も軽くていい。

5種目全部をやる体力をつけ、飽きたら例えばコーヒーでも飲みながら(子どもさんはコーヒーではなく)、とにかく全部やる。
全部やることで根気がつきます。

3時間かかるトレーニングを意地でもやっていると、次第に30分早くこなせるようになり、1時間早くこなせるようになり。
始めた頃と比べると、半分の時間で終わらせることができるようになる。

 

技の練習も量から質を生み出す

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仕事では、細かい部品の修理もできるようになった(写真:本人提供)

出来ないことをやる時は、技でもトレーニングでも同じことがいえます。
慣れていないから、慣れない、そうならない。
「出力」と「角度」と「タイミング」ですね。

新しい技を覚えるには、感覚がないから、それこそ乱取り(スパーリング)では使えない。試合で使うには何カ月もかかる。
これを無意識に、瞬間的に出来るようにするには反復作業なんです。
簡単に言うと打ち込み。
投げる技だけでなく、「つなぐ技」「相手の姿勢を崩す技」「自分の姿勢を戻す技」「釣り手の使い方」「引き手のコントロール」、これらを組み合わせてさらに打ち込みにする。
これを僕は「打ち込み化」すると呼んでいます。

 

 技は「打ち込み化」すべし

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現役時代の探究心を仕事で生かし、ホテルのリフォームにも自ら着手(写真:本人提供)

柔道の場面では、これを「研究」と言うのでしょう。

研究したことを「打ち込み化」しなきゃならないのに、研究の時間に対応策を考えてわちゃわちゃしたりはするのですが、打ち込み化できる人はなかなかいません。

ほとんどは打ち込み化せずにそのまま乱取りで使おうとします。

強い人はそれでいいんです。出来るから。

 

研究して、それを乱取りでできない人の場合は、もっと細かく鋭く的確に動けるようにするには、やっぱり「打ち込み化」して、投げる技を打ち込みするようにシチュエーションの打ち込みもするべきなんです。

 

そこまでを「量」で補うものなんです。

たくさん、たくさんの打ち込みを準備して慣れるまですべてやる。

すべてやるには時間が足りないので、僕は曜日に分けてやっていました。

(内柴 正人=この項つづく)

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

MasatoUchishiba

 

 

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