海の男を束ねる女性がいる。
山口県萩市の沖合に浮かぶ大島、通称「萩大島」。
坪内知佳さん(株式会社GHIBLI代表)はその漁師たちを束ね、漁業の復興に取り組んできた。
2011年から3船団からなる「萩大島船団丸」の代表に就任し、船から飲食店へ直送する鮮魚セット「粋粋BOX」のプロジェクトを開始。6次産業化事業を形にして、離島の命とも言うべき、漁業を一大ビジネスに押し上げた。
新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中、直送ビジネスで奮闘する坪内さんの歩みをひもといた。
第1回は、漁師軍団のボスになったきっかけとは?
逆風の中で気を吐く「粋粋BOX」
逆風が吹いている。
コロナ禍は都市部では飲食店を直撃したが、地方ではその生産者が苦境にあえいでいる。漁業もその一つ。豊洲市場では12月10日までに合計161人の陽性者が判明する中、出荷制限がかかった時期もあったという。買取価格は全国的に暴落し、例えばヒラメは通常の1/4まで下がったケースも。
一方で、気を吐くビジネスモデルもある。坪内知佳が率いる「萩大島船団丸」では、獲ってきたばかりの鮮魚を船で下処理し、そのまま港から出荷するという鮮魚セット「粋粋BOX」で活路を開いてきた。
地方からの直送は飲食店、消費者にとっては安心感のある手段だ。
きっかけは3万円
萩大島はもともと、まき網漁船が盛んな土地柄。しかし、坪内が携わる以前は燃料費の高騰、取引値の低迷などで赤字が続き、2005年以降は不漁が続いていた。
そんな時、ひょんなことから漁業にかかわることになった。まだ20代前半、山口県萩市で主に翻訳・コンサル業をしていた時に、知人から旅館の仲居さんを指導する仕事を依頼された。その忘年会で漁船団長の長岡秀洋とたまたま知り合った。
後日、長岡さんから電話があり、事業計画書を作ってほしいと頼まれた。当時は「趣味の一環として」(本人)半年もかけてリサーチし、法令を理解した上で書き上げた。
当時のギャラは3万円。本来はこの書類を書くだけの予定だった。
20代女性が漁師軍団のリーダーに
ところが、その後、今度は代表就任を依頼された。
事業計画書は国が推進する漁業の6次産業化に基づき、萩で獲れる高品質の魚をブランド化する内容だった。
大まかには、鮮魚を船上で下処理して箱詰め、そのまま直接顧客に届ける「鮮魚BOX(現・粋粋BOX)」と、高級干物「船上一夜干し」「寒風一夜干し」の製造および販売。
書類提出後、坪内は3船団から「代表をやってくれないか」と頼まれたのだ。
「(当時代表だった)長岡(秀洋さん)がサジを投げたので、私がなったという形です」
かくして「萩大島船団丸」は2011年、3船団による漁師約60人でスタート。その翌12年には漁業経験なし、しかも20代女性という異例のボスが誕生した。
(つづく=丸井 乙生)
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※これまで番組などで直接取材した経営者のかたの哲学についてまとめたコラムです。
新型コロナウイルス感染拡大による影響と闘う各業界の方々へエールを。
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