人生100年時代。わが子にお金を遺すにも遺せない時代が到来している。
ならば、魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるしかない。それは「考える力を養わせる」ことに尽きるだろう。
文武科学省が学習指導要領で打ち出している「生きる力」を身につけるすべをさまざまな事象から見いだしていく本コラム「学びの細道」、第2回はビジネスシーンでもプレゼンやネゴシエーションに活用できる「アナウンス力」に注目。
高校で放送部、大学でもアナウンス研究会で研鑽を積んだ筆者が滑舌練習のアレコレを紹介する。
「あめんぼ赤いなアイウエオ」は不滅
NHK杯全国高校放送コンテストで複数の歴代優勝者を輩出した、放送部の強豪・兵庫県。高校時代はその放送部で3年間発声練習を行う中、入部から引退まで毎日のように暗唱していた詩がある。
「あめんぼ赤いなアイウエオ」から始まる、北原白秋の「五十音」だ。
小学校の頃に国語の授業で音読した記憶がある人もいるかもしれない。
リズムと語呂がいいため、発声練習の中でも鉄板の一篇。三日坊主になりがちな筆者でも、毎日続けることができた。
通称「あめんぼの歌」は滑舌練習を続けるうちに、自分が苦手な「行」が判明する。
サ行の「ささげに すをかけ サシスセソ そのうお あさせで さしました」は、かなり口が疲れる。
ハ行の「はとぽっぽ ほろほろ ハヒフヘホ ひなたの おへやにゃ ふえをふく」は息が漏れやすいため、なかなか続かない。
文字では簡単なように見えても、はっきりテンポ良く発声してみると意外と難しいものだ。
意外と言えない「だぞざど」
毎日20~30分行っていた発声練習のうち、最も苦戦した発音が「だぞざど」を10回連続で言うというもの。
ザ行とダ行の発音は舌の位置が似ているためか、明確に区別して発音しにくい。はっきり区別して言えるようになるための練習だ。
〝10回クイズ〟で「ピザ、ピザ…」と反復する場合と同様のテンポで言わなければいけないのだが、これがかなり難しい。
最初の3回くらいは可能でも、途中で急に分からなくなったり、順番がおかしくなったりする。一度口に出して挑戦してみてほしい。
噛んだら「外郎」売れません!
大学でアナウンス研究会で課題に出される練習が、かの有名な「外郎売(ういろう・うり)」。過去に通ったアナウンススクールの授業でも練習した。
歌舞伎の台本が元になっているため、アナウンサーだけでなく俳優の発声練習にもよく使われるものだ。
「ういろう」と聞くと、あの甘い和菓子を連想しやすいが、これは中国から伝わった万能薬を指す。早口言葉や言葉遊びのパフォーマンスを交えながら実演販売している様子が、この「外郎売」だ。
「拙者、親方と申すは」から始まる自己紹介・薬の説明のパートは、実演販売員になった気分でスラスラと読めて楽しい。
しかし、進めるにつれて急に難易度が上がっていく。そこが外郎売の恐ろしいところ。
「ひょっと舌が廻(まわ)りだすと」から早口言葉のパフォーマンスが始まり、数々のトラップが仕掛けられた言葉が羅列されている。テンポよく噛(か)まずに話したいところではあるが、舌がなかなか付いてこない。
「外郎売」の早口言葉ポイント
「外郎売」で、特に難しい早口言葉を3つピックアップした。
①書写山(しょしゃざん)の社僧正(しゃそうじょう)
ゆっくりだとしても、なかなか言えない。
②京(きょう)の生鱈(なまだら)、奈良生真名鰹(ならなままながつお)
後半が特に難しい。
③菊(きく)、栗(くり)、菊栗、三菊栗(みきくくり)、合わせて菊栗、六菊栗(むきくくり)
ちなみに、有名な早口言葉「カエルぴょこぴょこ」も筆者は苦手だ。
「外郎売」では早口言葉のパートが終わると、今度は言葉遊びが始まる。リズムが良く、踊るような気分で読める。
そして、最後は「ういろうはいらっしゃりませぬか」と呼びかけて終わる頃には達成感でいっぱいだ。
この「外郎売」は独りでストイックに練習する方法もあれば、複数人で一文ずつ交代で読み、噛んだ人から脱落する〝外郎売デスマッチ〟などの楽しい練習方法も。日々続けるにはお勧めだ。
(きたがわ まひろ=mimiyori編集部)