読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
春の恒例にしているお花見サイクリング、4回目の2023年は千葉県へ。県内を走るローカル線の小湊鉄道といすみ鉄道の沿線には、桜と菜の花が一緒に楽しめるスポットがたくさんあるそうなので、サイクリングでめぐってみた。
第2回は、いすみ鉄道の上総中野駅から上総中野駅まで走る。
いすみ鉄道沿いにサイクリング
前回、市原市から大多喜町に入り、小湊鉄道の終点の上総中野駅に到着。時刻は、まだ10時前。ここはいすみ鉄道に乗り換える駅で、ここからはいすみ鉄道沿いに外房へ向かってサイクリングしていく。
JR外房線の大原駅まで走るいすみ鉄道は、もともとは国鉄木原線だった。計画では上総中野駅からさらに西の上総亀山駅まで線路を伸ばし、現在のJR久留里線とつながって、木更津-大原間で房総半島を横断する予定だったそう。小湊鉄道も計画通り外房の小湊まで通じていたら、Xのかたちで房総半島を横断する鉄道が2本できていたわけだ。
木原線は国鉄の分割民営化後、1988年に第3セクターのいすみ鉄道となり、2023年3月で創業35周年を迎えた。全長26.8kmのうち沿線の約15kmで菜の花が咲き、「菜の花列車」の愛称でも知られている。いすみ鉄道の運転士や社員が「鉄道の旅を楽しんでもらいたい」と、菜の花の種をまいたのが始まりだという。
青空の下を走る菜の花列車
いすみ鉄道も1駅ずつ立ち寄り、まずはお隣の「西畑駅」へ。小さな無人駅で、ホーム脇の桜は少し葉桜になっている。駅を出てちょっと先の菜の花に囲まれた踏切で、大原からの下り列車と遭遇した。
その先の「総元駅」は、やや大きな駅。線路沿いに桜と菜の花がたくさん咲いていて、人気の駅のようだ。
あと15分ほどで上り列車が来るようだが、まだ時間があるので駅から300mほど離れた黒原不動滝をちょっと見物。高低差はほとんどない滝だが、その上で約50匹のこいのぼりが風にたなびいていた。
駅に戻ると、ホームや踏切のあたりはカメラが構えている人がたくさんいる。といっても数10人ぐらいだが、場所取りが難しそうなのでちょっと離れたところでスマホを構える。
しばらく待つと、青空の下、桜と菜の花に囲まれた線路を列車がゆっくりと過ぎていった。
東京から最も近い秘境駅へ
続く「久我原駅」は、いすみ鉄道のパンフレットには「東京から最も近い秘境駅」と書いてある。
今までも小さい駅はたくさん見てきたけど、近くに民家がないから秘境駅なのだろうか。この駅の周りは菜の花ではなく、黄色い水仙が咲いていた。
次は「東総元駅」。この駅の周りは線路沿いの桜並木が長く続いていて、カメラを抱えている人も多い。撮り鉄のみなさんも、それぞれお気に入りのポイントがあるようで、1カ所に固まらず、ほどよくバラけている。
桜に囲まれた大多喜城
続く小谷松駅を過ぎて、大多喜駅へ。大多喜町の中心の駅で、駅舎がいすみ鉄道の本社と繋がっている。列車も何両かとまっていて、ここには車両基地もあるようだ。
この駅の近くには、大多喜城がある。徳川家康の家臣で、徳川四天王の1人という本多忠勝が初代城主だという。遠くからでも丘の上に桜の花に囲まれたお城が見えていたので、足を延ばしてみる。
1kmちょっと走って、ちょっと坂を上って駐車場に自転車を止める。さらに坂を歩いて登ったら、上に駐輪場があった。再現された天守閣の中は博物館になっているようだが、現在は耐震補強工事で休館中。天守の周りの桜はちょっと散りかけているが、なかなかいい雰囲気だ。
城から下り、大多喜の町中へ。城下町だけあって古い建物が並び、「房総の小江戸」と呼ばれている。
城下町を抜けて、夷隅川を渡ると大きなスーパーやホームセンター、チェーンの飲食店が並ぶ郊外の町らしい風景が見えてきた。その片隅に「城見ヶ丘駅」がある。バス停のような小さな駅だなと思っていたら、ちょうと上り列車がやってきて、まあまあいい感じの写真が撮れた。
ここまで、いすみ鉄道8駅分走って線路的には12kmの距離だが、自転車では18km、スタートからは43km走ってきた。時計は12時をちょっと回ったところ。次回は大多喜町を抜けて、いすみ市に入っていく。
(光石 達哉)