【行ったつもりシリーズ】千葉で桜と菜の花とローカル線を追いかけるサイクリング(1)高滝駅~上総中野駅

上総大久保駅近くの踏切。ここを列車が通ったら、いい感じの絵になりそうだ
(撮影:光石 達哉)

読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。

春の恒例にしているお花見サイクリング、4回目の2023年は千葉県へ。県内を走るローカル線の小湊鉄道といすみ鉄道の沿線には、桜と菜の花が一緒に楽しめるスポットがたくさんあるそうなので、サイクリングでめぐってみた。第1回は、小湊鉄道の高滝駅から上総中野駅まで走る。

 

 

 4年目の花見サイクリングは千葉が舞台

4年目の花見サイクリング。桜と菜の花、列車とロードバイクという写真が撮りたくて千葉のローカル線へ(撮影:光石 達哉)

コロナ禍が始まった2020年、感染リスクを避けるために1カ所に留まらず自転車で多くの花見スポットをめぐろうという目論見で始まったこの企画。1年目は東京23区、2年目は神奈川県の横浜市と川崎市、3年目の2022年は埼玉県のお花見スポットを周ってきた。

その間、コロナに対する人々の意識も変わってきて、この3月からはマスク着用も「個人の判断が基本」となり、最近はマスクしている人は多いけれど、移動や外食などはほとんど気にしなくなってきた気がする。

そんな中、4年目の2023年は千葉県へ。テレビの旅企画などいろんなメディアで見かける、ローカル線の車両が桜と菜の花の中を進む景色が気になって見に行くことに。ただ、2023年は東京を始め桜の開花が早く、しかも、咲いたと思ったら長雨が続いてなかなか出かけるチャンスがなかったため、ようやく4月最初の週末に出発となった。

 

 行き当たりばったりの旅~いきなり列車と遭遇

スタートは市原市の高滝湖。この日は、赤い鉄骨の加茂橋周辺の桜並木が満開だった。釣りのスポットとしても人気で、近くには「市原ぞうの国」もある(撮影:光石 達哉)

今回、沿線めぐりをするローカル線は、小湊鉄道といすみ鉄道。2本の路線で房総半島を横断、というか北西から南東に斜めに貫いている。

 

加茂橋のたもと、湖に面した高滝神社。千葉県屈指のパワースポットだという
(撮影:光石 達哉)

小湊鉄道は市原市の五井駅から大多喜町の上総中野駅まで39.1kmあるが、そのほぼ中間地点にある高滝湖からサイクリングをスタート。この辺りから桜と菜の花が一緒に咲いている景色が多いようだ。

待ったかいあって天気は快晴で、スタートした午前7時過ぎは気温10℃前後とやや肌寒かった。高滝湖はダム湖で、湖畔にも桜が咲いているので湖を軽く半周。やや散り始めているものの、まだ十分見ごろといえる。

 

最初に立ち寄った小湊鉄道「高滝駅」でいきなり列車に遭遇。架線がないディーゼルカーで線路は単線(撮影:光石 達哉)

湖畔をちょっと離れ、近くの高滝駅へ。いきなり線路沿いに桜と菜の花が咲いているというお目当ての景色が広がっている。しかも、踏切のそばでカメラを構えたいわゆる「撮り鉄」っぽい人が数人いる。その中の女性に聞くと、あと10数分ほどで列車が来るという。

時刻表をザっと見たところ、小湊鉄道が走るのは上り下り合わせて1時間に1、2本ほど。とはいえ、沿線をサイクリングしてれば行き当たりばったりで何度か出くわすだろうと気楽に考えていたら、いきなりそのチャンスがやってきたわけだ。駅舎をちょっと見物して踏切に戻り数分待つと、五井方面から二両編成の下り列車がやってきた。菜の花の間を縫って走る姿は感動だ。

 

お隣の「里見駅」に行ったら、先ほどの列車が停まっていた。駅名は南総里見八犬伝の里見氏に由来するようだ(撮影:光石 達哉)

列車を見送り、自転車にまたがって隣の「里見駅」へ。ホームに列車がとまっていると思ったら、先ほど見送ったのと同じ車両だった。どうやらここで数分停車していたようだ。今度は桜、菜の花、列車、さらにロードバイクも入れてと、すべての要素を盛り込んだ写真が撮れ、早くもラスボスを倒した気分だ。

 

 ヤマトタケル伝説由来の「飯給(いたぶ)」駅

里見駅近くの与太郎桜。青空にソメイヨシノの薄ピンクが映える。手前は民家の庭だが、夜桜を楽しむための照明が設置されている(撮影:光石 達哉)

とはいえ、まだ走り始めたばかりなので、里見駅のそばにある与太郎桜へ。細く短い激坂を上った小さな丘の上、青空をバックに1本の桜が咲いている。坂の途中の民家の庭に照明が設置されていて、夜桜も楽しめるようだ。丘を登り切ると、菜の花も一面に咲いている。

 

「飯給駅」は「いたぶ」と呼ぶ。ヤマトタケルが地元の人から飯を献上されたことが地名の由来らしい。ここも桜と菜の花の名所(撮影:光石 達哉)

そのままこの丘を越えて、次の「飯給駅」へ。この駅の周りも桜と菜の花が咲いている。しばらく列車は来ないようだが、数人の撮り鉄さんたちが待ち構えている。

 

飯給駅前にある「Toilet in Nature」は、アート作品でもある女性専用公衆トイレ。この季節は菜の花に囲まれながらすることができる。もちろん外からは見えない構造だが、気になる人は隣に普通の誰でもトイレもある(撮影:光石 達哉)

この駅前には、黒い丸太塀で囲まれた空き地の中にガラス張りの小部屋があり、その中に洋式便器が置かれている。これは、世界的建築家の藤本壮介さんが設計した「Toilet in Nature」という女性専用の公衆トイレ。「世界一大きなトイレ」としてテレビなどで紹介されているのを見たことあるが、こんな駅前にあったとは。

ちなみに、すぐ隣には同じような黒い丸太づくりで、壁も屋根も囲われた誰でもトイレもある。

 

「月崎駅」の駅舎とプラットフォームは、大正15年に作られた国登録有形文化財だそう。小湊鉄道には国登録有形文化財に指定されている駅がたくさんあるそう(撮影:光石 達哉)

駅を順番に見て回るのがおもしろくなってきたので、次の「月崎駅」へ。ここも人気のエリアのようだ。その先の「上総大久保駅」に着いたとき、今度は上り電車がやってきたがいい構図を探す暇がなかった。

ちなみに、小湊鉄道にはSLのかたちをしたトロッコ列車も走っているようだが、この日は見ることができなかった。

 

「上総大久保駅」で下り列車と遭遇。遠くの畑から、カメラを構えている撮り鉄さんたちもいた(撮影:光石 達哉)

 

上総大久保駅前には、外から丸見えな古いトイレと近代的なトイレが並んで立っている。いろんな代わり映えトイレがあるのも、小湊鉄道あるあるのようだ(撮影:光石 達哉)

 

 上総中野駅でいすみ鉄道へ乗り換え

次の駅に向かう途中、養老川も見えてきた。奥に見えるのは小湊鉄道の鉄橋
(撮影:光石 達哉)

次の駅へ向かう途中、道沿いに深い谷川が流れている。これが養老川で、千葉県の名所である養老渓谷へと繋がっているようだ。

次の駅は、その名の通り「養老渓谷駅」。駅前でイベントの準備が行われていたが、ガタイのいい人が多いなと思ったら、プロレスのリングが建てられていた。まだ午前9時過ぎだったので、試合までは時間があるようだった。

 

渓谷ハイキングの玄関口でもある「養老渓谷駅」前はイベントの準備中。出店などの他に、プロレスのリングが建てられていた(撮影:光石 達哉)

 

養老渓谷駅にはボンネットバスもとまっていた。市原市観光協会が走らせているようだ
(撮影:光石 達哉)

しばらくは上り坂。市原市から大多喜町に入ると下り坂に変わり、次の「上総中野駅」に到着。ここが小湊鉄道の終点で、いすみ鉄道に乗り換えることができる。

ここまで鉄道路線的には7駅15kmほどだったが、自転車ではちょこちょこ回り道したので約25km走ってきた。

 

小湊鉄道終点の「上総中野駅」。ここで、いすみ鉄道に乗り換える(撮影:光石 達哉)

 

右手前が小湊鉄道、左奥がいすみ鉄道の線路。かつて小湊鉄道はここから外房の小湊まで延伸する計画があったらしい(撮影:光石 達哉)

ちなみに。小湊鉄道は大正時代、この上総中野から外房の小湊まで延伸される計画だったそうだが、その後の昭和恐慌や山越えの工事の困難さにより実現しなかったという。つまり名前は小湊鉄道だが、実際は小湊までは走っていないのだ。

 

次回は、この先のいすみ鉄道の沿線をサイクリングしていく。

 

(光石 達哉)

今回のルート:①高滝駅-②里見駅-③飯給駅-④月崎駅-⑤上総大久保駅-⑥養老渓谷駅-⑦上総中野駅

 

 

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