企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。つれづれなるままに、今回は「水辺や湿地の花」の後編を紹介する。
モネが愛したあの花も、仏教で神聖な花とされるあの花も、目を引く美しさなのは、私たち人間に水の大切さを教えてくれているからかもしれない。
盆花として知られるミソハギ
「ミソハギ(禊萩)」は、ミソハギ科ミソハギ属の多年草。水辺を好むことから、日本各地の湿地に生える。
お墓や仏壇に供える盆花として知られている。お盆の頃、仏前の供物にミソハギの数株で水をかけて清める風習があったことから名付けられた。亡くなった方に思いをはせることから、「愛の悲しみ」「慈悲」といった花言葉が付けられているという。
花期は7~8月で、50センチ~1メートルのまっすぐな花茎に直径1.5センチほどの紅紫色の花が多数咲く。長中短と3種類の雄しべと雌しべを持つ植物で、長さの違いにより微妙に違う3通りの花がある。
キキョウに似ていないサワギキョウ
「サワギキョウ(沢桔梗)」は、キキョウ科ミゾカクシ属の多年草。日本各地の日当たりのよい高原の湿地などに生える。
名前に「キキョウ」と付いているが、花色が似ているためで、花形はキキョウとはまったく異なる。
花期は8~9月。草丈は50センチ~1メートルで枝分かれしない。茎の上部に濃紫色の花を多数付ける。茎は傷が付くと白い乳液を分泌する。
キキョウは薬用になるが、このサワギキョウの草には有毒のロベリンという成分が含まれ、体内に入ると頭痛、嘔吐、下痢、血圧低下といった症状が出るので要注意。
葉が牛の額に似ているミゾソバ
「ミゾソバ(溝蕎麦)」は、タデ科イヌタデ属の一年草。日本各地の田のあぜや河原など湿り気のある場所に群生する。
名前は溝に生育し、花と葉がソバに似ていることに由来する。葉の形は牛の額にも似ていることから別名は「ウシノヒタイ」。
花期は7~10月で、草丈は30センチ~1メートル。枝先に上部が紅紫色、下部が白色の金平糖似の可愛らしい小さな花を付ける。
あの画家が愛したスイレン
「スイレン(睡蓮)」は、スイレン科スイレン属の多年草。日本では前編で紹介した「ヒツジグサ」の1種類のみが自生している。
スイレン属は温帯から熱帯にかけて、世界に約40種が自生している。明治時代に外国産のスイレンが日本に輸入されるようになると、花の美しさから一気に広まった。輸入種は品種改良が進み、現在では数百種以上の園芸種があるとされる。
スイレンは水面に葉や花を浮かべ、葉は円形か広楕円形で深い切れ込みがある。花期は4月下旬~7月中旬。
フランスの印象派画家クロード・モネはスイレンが好きで、自宅の庭の池にスイレンを植え、スイレンを描いた名作を数多く残している。
2000年の眠りから覚めたハスがある
「ハス(蓮)」は、ハス科ハス属の多年草で、インドが原産。インドから世界中に広がり、さまざまなシンボルに使われていることが多い。
ハスは泥水のような池(蓮田)の中からまっすぐに茎を伸ばし、花や葉は通常、水面より高くなる。葉は円形で切れ込みはない。花期は7~8月で、白またはピンク色の花が咲く。
花は早朝に咲き始め、昼には閉じてしまうため、1日に観賞できる時間はそう長くない。しかし、昼には閉じて、朝になると再び開くことから、太陽や創造、再生の象徴とされ、インドやベトナムでは国花となっている。また、泥から出てきても美しい花を咲かせることから、清らかさの象徴として仏教では神聖な花とされてきた。
1951年、日本の植物学者・大賀一郎博士は、千葉市にあった東京大学検見川厚生農場内の落合遺跡から発見された古代のハスのタネを発芽させ、翌年、花を咲かせることに成功した。2000年以上の眠りから覚めたとされるこのハスは「大賀ハス」と名づけられ、54年に千葉県の天然記念物に指定されている。
(安藤 伸良)