企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「野イチゴの仲間」の後編を紹介する。
現代の日本では「イチゴ」は嫌いな人がいないほど広く好まれている。今、私たちが食べているイチゴはバラ科オランダイチゴ属のもので、江戸時代にオランダ人によってもたらされたもの。その後、各地で品種改良され現在は多くのブランドイチゴが流通している。
種子に見えるつぶつぶの痩果(そうか)が付いた花托(かたく)部分(以下果実と表記)が食用になる。ここでは、バラ科キイチゴ属の野生のイチゴの花と果実を集めてみた。
エビに見える?見えない?エビガライチゴ
「エビガライチゴ(海老殻苺)」は、バラ科キイチゴ属の落葉低木で、北海道〜九州の山地の日当たりのよい場所に分布する。
花期は6~7月。枝先に淡紅紫色の花が数個付く。ガク片に赤茶色い毛が目立つ。名前は腺毛が赤くエビの殻のようであることに由来する。
果実は8~9月に、1~1.5センチの球形の集合果で赤く熟す。甘みが少なく、果実酒向き。英名の1つが「ワインベリー(wineberry)」。
美肌効果が期待できるナワシロイチゴ
「ナワシロイチゴ(苗代苺)」は、バラ科キイチゴ属の落葉低木で、日本各地の山野の日当たりのよい所に生える。別名は「サツキイチゴ」。花は初夏に咲くが、果実が苗代(稲の苗を育てる場所)を作る時期に熟すため、「ナワシロイチゴ」の名がついたとされる。
花期は5~6月。枝先や葉腋に紅紫色の5弁花が数個上向きに咲く。満開時にガクが開くのみで、花弁は閉じたままになっている。
果実は7~8月に、約1.5センチの球形の集合果で赤く熟す。生食も可能だが酸味が強く、ジャムや果実酒に向いている。お酒は薬用酒にもなり、疲労回復や美肌に効果があるのだとか。
真冬に実が熟すミヤマフユイチゴ
「ミヤマフユイチゴ(深山冬苺)」は、バラ科キイチゴ属のツル性常緑小低木で、関東地方以西の本州、四国、九州の山地の林下に生える。
花期は9~10月。枝先や葉腋に白い花が数個集まって咲く。
果実は名前の通りに11~12月の冬に、1センチ弱の球形の集合果で赤く熟す。甘酸っぱいが、生食も可能。筆者は晩秋の高尾山の日影沢林道を歩いている時に偶然、見つけることができた。
信濃路に咲くシナノキイチゴ
「シナノキイチゴ(信濃木苺)」は、バラ科キイチゴ属の落葉低木で、関東〜中部地方の山地に生える。
花期は6~7月。花は枝先や葉腋に1個~数個付く。花弁は白色で長さ約5ミリ程度と小さく、平開しない。ガク片は狭く、糸状に伸びる。
果実は球形で、1~1.5センチに赤く熟す。
写真は、筆者が16年の夏に上高地の散策路を歩いていた時に見つけたもの。残念ながら果実は見られず撮影できなかったが、白花の形が他の野イチゴと少し変わっているため写真を紹介した。
(安藤 伸良)