【自転車】完走率が低くても気にしないで! 自転車ロードレースの思惑と事情

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東京2020テストイベント・自転車ロードレース男子の終盤の争い。中央の青いジャージが優勝したディエゴ・ウリッシ(イタリア)。この時点では多くのアシスト選手がレースを終えていた。(撮影:光石達哉)

2020年東京五輪のマラソン・競歩の開催地が猛暑の東京から札幌に決定した。開催地変更に至るまでには、日本のみならず海外でも議論が巻き起こった。発端は、19年9~10月にカタール・ドーハで行われた世界陸上における両競技の完走率の低さだ。

このニュースを聞いて思い出したのが、同年7月21日に行われた自転車ロードレースの東京五輪テストイベントで、小耳にはさんだ話だ。

ゴール地点の富士スピードウェイのプレスルームでリザルトが配布されたとき、おそらく普段あまり自転車競技を取材していないであろう一般紙などの記者たちが、「完走率低いな。大丈夫か?」などと額を突き合わせて話していたのだ。

 

女子マラソンの完走率より低い

実際にこの日の出走95選手中、完走は49選手で完走率は51.6%。ドーハ世界陸上で過去最低だといわれた女子マラソンの完走率58.8%を下回っている。

しかし、自転車ロードレース(特に1日で完結するワンデーレース)で完走率が低いことは珍しいことじゃない。約1カ月前の6月30日に開催された五輪代表選考レースのひとつでもある全日本自転車競技選手権ロードレースは出走152選手中完走25選手で、完走率にするとわずか16.4%しかなかった。

もちろん、気象条件や体力的な問題で途中棄権する選手もいるのは間違いないが、完走率が低い理由はそれだけではない競技の特性や事情もある。

 

エースとアシスト 完走目的ではない選手もいる

まず、完走を目的に走っていない選手もいるということだ。マラソンなどの陸上競技はたとえ同じチーム、国であってもそれぞれ個々に成績や記録を狙っているが、自転車ロードレースの場合はそうではない。チーム同士の争いが基本で、その各チームにはエースとアシストという役割分担がある。

エースはレース終盤、他チームのエースたちとの争いに備えるため、レースの大半はなるべく体力を消耗しないように努める。一方、アシストはエースの風よけとなったり、集団のペースメークをしたり、ドリンクボトルや補給食を運んだりする。

例えば、自転車ロードレースでよく見る「逃げ」という作戦がある。Aチームのアシスト選手が集団から飛び出して、単独または少人数で走り続けることだ。そうすると、B、C、Dのチームは、Aのアシストがそのまま逃げ切って勝つことがないように、アシストを集団の前に出してペースメークをする。結果、B、C、Dはアシスト選手の体力を消耗してしまう。

たいていの場合、レース終盤にはB、C、Dのアシストの頑張りで、逃げて体力を消耗したAのアシストは捕まってしまうが、Aのエースとその他のアシストは集団内で他チームの後ろについて空気抵抗を受けずに走ることができたため、最後の勝負で有利になる。

この結果、Aチームのエースが優勝すれば、Aのアシストの走りは大きく評価される。逆にB、C、Dのエースが勝ったとしても、B、C、DのアシストがAのアシストを捕まえたおかげだと、評価の対象になる。

だから、A、B、C、Dのアシストが力尽きて完走できなかったとしても、チームや自転車メディアはよく頑張ったと称賛こそすれ、「なんで完走できなかったんだ!?」という話にはならないのだ。

役割があるからこそ好成績を残せる

アシストは自分の成績を犠牲にしている、と美談のように語られることもあるが、一概にはそうとも言えない。各チームの選手が個々にバラバラで走るより、エースとアシストの役割を決めて走った方がチームとして好成績を残せる確率が高いからやっているのである。

実際、スキーのノルディック複合やクロスカントリーなど他の持久系スポーツでもこのような作戦はよくとられている。

かつて読んだある記事では、とある日本の車いすマラソンの選手が「自転車ロードレースのようにチームとして走ることが普及すれば、日本はもっと強くなる」という趣旨の発言を目にした。

それ以外に運営上のやむを得ない理由もある。大きく遅れて優勝争いや上位争いに関係がなくなった選手は、審判からレースをやめろと指示されることもある。例えば一般道を封鎖してレースを行っている場合、いつまでも遅れている選手を待っていられないからだ。

もちろん完走に越したことはないが、選手も50位だろうと100位だろうと文字通り五十歩百歩と考えて、無理に完走するより自分の体調を鑑みて早めにレースを降りるなんてことも少なくない。

 

4年に1度の五輪 厳しいコースでも完走したい

とはいえ4年に1度の五輪ともなれば、選手たちも熾烈な代表争いを勝ち抜いて出場しているだけに、せめて完走だけでもしたいというモチベーションは高いと予想される。

そもそも、東京五輪の自転車ロードレースのコースは、マラソンとは逆の事情で厳しくなった経緯がある。当初は、皇居前をスタートして東京の府中市・多摩市あたりの周回を回るコース案だった。

しかし、これではコースが簡単すぎて、ゴール前以外に見どころが少ないと国際オリンピック委員会(IOC)が異を唱えた。その結果、東京・府中市をスタートし、レース展開に変化が生まれそうな山梨県・静岡県の富士山周辺を回る山岳中心のコースとなったのだ。

結論として何が言いたかったというと、20年夏の東京五輪・自転車ロードレースで完走率が低かったとしても、「こんな暑い時期にやるからだ」「コースが過酷だからだ」と安易に批判しないでね、とあらかじめ釘を刺しておきたかったのだ。

(光石 達哉)

 

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