【連載「生きる理由」81】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「斉藤仁先生から学んだこと」⑤~教えの意味を理解した日

この夏に大集合した弟子入り志願者たちとバーベキュー(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は師匠の教えを理解したことについて。
若者たちから指導を求められた2022年の夏。人を支えることによって、胸に去来するものがある。国士舘大で指導を受けた斉藤仁先生からの教えを振り返った。

 

 

 

「僕の柔道は斉藤先生の方針そのまんま」

柔道を指導する内柴氏。目は真剣そのもの(撮影:丸井 乙生)

スタイル。

僕の柔道は人と違っていて、
これまでは受け入れられないことが多く。

「ほかの人には必要がない」と見切りもつけていたし、理解できない人に押しつけることでもない。
そんなふうに思い、「教えない」と決めていました。
面倒くさいもん。

ここまで必要とされたことは初めてです。

何にせよ、大丈夫。
僕の柔道をとことんまで真似しても大丈夫。

なぜなら、僕の柔道は斉藤先生の方針そのまんまであるから。

 

「二つ組め」「離すな」「切るな」

2017年秋、身の振り方を考えていた頃(撮影:丸井 乙生)

「二つ組め」
「離すな」
「切るな」

斉藤先生はというと、相手に組ませたまま、そのまま内股や大外刈に入る。
軽量級ではまず、組ませたままで技に入ることが難しい場面があり、
組ませたまま、持ったまま切るという打ち込みをあえてつくったこともある。

国士舘の先輩方が全日本の強化選手としてそこそこ勝っても
外されていく中、あきらめていく中で、
なぜ外されるのかを見て学びました。

背中を持ちたい瞬間がある。
瞬間瞬間に楽をする。
本人はチャンスとも思っている。
ポイントを取ってしのぐ。
そういう精神面と柔道スタイルは一体なのだ、と気づいた時期が大学1年生の時でした。

 

柔道の姿勢を信じてくれた

今から5年前の秋、長年会うことができなかった人たちに会うために海へ行った。手前が内柴氏(撮影:丸井 乙生)

負けても前に出る。
背中を持たない。
横着しない。

 

僕がどんなに負けがこんでも、
60キロ級で2度の体重オーバーで試合に出られない時でも、
公式的には強化選手から除名処分となっても、
「行くぞ!合宿! 金、いくらある。自費で行け!」
なんて言いながら、
先生は自ら、僕が当時所属していた旭化成に交渉して、自費のうち半分は旭化成が払ってくれる手はずまで整えてくれた。
さらに、
会社内の所属は宮崎県の延岡勤務。
合宿がない時は、月に2週間は延岡に帰るルールがあった。

それも斉藤先生は交渉してくれて、
計量失格、全日本除名処分の僕を
「内柴はまだやれる」と神奈川県の厚木勤務に変えてくれた。

「内柴は東京で練習させるべき」

もう、気まずいったらありゃしない。
もう、夢をあきらめていたのに。
それが24歳の5月でした。

 

サポートがあったからこそ

来日しているキルギスの大学生たちを参加していた合宿へ迎えに行き、帰路の途中にある高千穂峡で神秘的な景色を見せてあげた(写真:本人提供)

「60キロ級で世界一になる」
野村忠宏さんを倒した上でオリンピックチャンピオンなること以外意味がない。
もう、普通に働く。

そんなふうに考えていた時期の転勤でした。

自費で行った海外遠征。
当たり前に過ごして来た合宿も、1人1人にどれだけのお金が使われていたのかを学ぶ機会にもなった。

そんなふうにして66キロ級で復帰した僕は国内の大会全部優勝。
国際大会も最後に1つ負けたけれど、ほかは全部優勝して
オリンピックに行くわけだけど。

僕の頑張りの話なんてどうでも良くて
斉藤先生やその上席、上村春樹先生が見えないところでサポートしてくれていなければ、
僕は結果を出すことはできなかっただろう。

 

斉藤先生が言っていることを理解できた

先生方のしてくれたことを知っていての努力、
知らぬふりしての努力もあれば、
先輩方の教訓を元に、斉藤先生が何を言っているのかを理解できた部分が多かったから、できた努力もある。
だから、使ってもらえていた。
そう思っています。
(内柴 正人=この項つづく)

 

 

◆8月27日(土)柔道セミナーを大阪で初開催       

キルギス共和国から職業研修で来日している大学生3人の柔道活動費を支援するために、6月に愛知県、東京都でチャリティー柔道セミナーを開催した。

今回は大阪で初開催、2部制で行う。。

●日時:8月27日(土)1部=午後2時30分~午後4時30分(セミナー)、2部=午後5~7時(練習会)。受付は午後2時より。

●場所:エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育館)=大阪市浪速区難波中3-4-36

●参加費:1部(セミナー)のみ参加=事前振込5000円(15歳以下は3000円)、当日支払い6000円(15歳以下は4000円)、1、2部ともに参加=事前振込8000円(15歳以下は5000円)、当日支払い9000円(15歳以下は6000円)。

●申し込み:piiita6u6@gmail.comまで。参加希望の方はメールにて、お名前、電話番号、事前振込、当日支払い、どちらのご希望かを記載してご連絡ください(事務局より)。

●留意事項:当日は、48時間以内のPCRまたは抗原検査の「陰性」が分かるものをお持ちください。

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信開始          

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に週1回開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。

詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

 

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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