【連載「生きる理由」119】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「忙しすぎる日々の話」~夫人のすごさを改めて感じる

道場「EDGE&AXIS」で夫人(右)と乱取りを行う内柴氏(提供:合同会社EDGE&AXIS)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は、「忙しすぎる日々の話」。
夫人が監督を務める新道場「EDGE&AXIS」の活動が始まっている。
仕事、道場作り、練習指導とフル回転する内柴氏だが、
自身のトレーニングに割く時間がないことが悩みの種。

そんな多忙な日々の中で、夫人のすごさについて改めて感じたことがあるという。
その出来事とは。

 

 

 

忙しすぎて自身のトレーニングができない

こんにちは
内柴です。

活動してるのか、してないのか分からないくらい、せっせと仕事と道場作りをしています。

一つ分かったこと。
仕事、道場作り、練習は両立出来ない。

出来てないことの一つが、僕にとって
とても大きなものであり、
そのために仕事をしたり、道場作りをしたりしているのです。

そう、それは自分のトレーニングです。

まったく出来ていない。

早朝、起きて出社までの時間に道場のことでトンカントンカンする。
気がつけば出社。

子どもたちの練習を僕の仕事の休憩時間に合わせてもらって行う。

練習が終わればすぐ仕事。

店閉店、掃除、売り上げ計算、
鍵閉め。

この流れだけなら簡単。

日にちを決めて仕事だけできる日というのも設定してあり、
まずもって、仕事が立て込んでいれば練習は妻に任せる。

ああ、
監督は妻なので任せるではなく、
妻の柔道教室に僕が参加して妻の方針に自分のアドバイスを加え続けているだけなので、
僕の仕事が立て込んでいる時は本来の形となる、が正しいですね。
はい。

 

のんびり辛抱しよう

道場の準備で古タイヤを集めに自ら走り回った(提供:合同会社EDGE&AXIS)

今いる子たちは新中学1年生と新小学4年生。
これがね、
あと3~4年経てば、この子達の体のサイズも体力も
僕の練習相手になるサイズになるのだろう。

とにかく小さい、きゃしゃ。
大きい子は身体の軸がふにゃふにゃ。


柔道とは相手の軸を捉えるのが仕事、
自分の軸を常に意識するのが仕事。

まあ、教えることでは汗は出ないんです。

5年10年はすぐに経ちますからね。
これまでのようにのんびり辛抱しようと思います。

でも、
すぐに過ぎる年月も
毎日という時間はのんびりしたもので進まない。

「このままでは衰えていく」
心配ばかりです。

 

1日1日が早い

新道場内での練習で、夫人に投げられる内柴氏(提供:合同会社EDGE&AXIS)

矛盾した話、
のんびりした毎日もなぜだか一瞬で過ぎていく。
面白いもので、
きょう、この瞬間も1日の時間の短さにうんざりするんです。
今、午後2時2分。

きょうは1年間ためた鉄くずを知り合いの産廃業者さんに回収してもらいました。
朝一発目の仕事。

二発目、
車にバイクを積みたいとホテルに宿泊されているお客様が言っていらしてお手伝い。

これで、
朝の身動きが取れなくなりました。
仕事だもん。

また、
仕事でなくても「ヘルプ」を出されている方の助っ人ができるという状態は、とてもいいものです。
いい気分にはなりました。

「車にバイクを積む?」
若い頃からの趣味らしく、小さな車に大きなバイクを積み込んで走れるところへ旅に出る。

そんなお客様がいらっしゃいました。
腰痛のため、
きょうのバイクはお休みだそうです。

腰痛はいらないけど
そんな趣味をされているお客様は
素敵です。

 

夫人も一緒に学んでいる

仕事の温浴施設ではマネジャーとして日々、何かの修理に励んでいる(提供:合同会社EDGE&AXIS)

さて、
「柔道教室」
柔道クラス、なんと言えばいいのか。
柔道の指導。

うちのジムの先生、
僕の妻ですね。

彼女の話。
練習中に彼女が指導をしている。
僕が割って入る。
練習メニューというものがあり、それすらもすっ飛ばして
彼女の教えている技術のいち部分にこだわって伝わるまで教える。

この時にね、
妻も勉強してるんですね。

練習を止めても全然ふて腐れない。怒らない。
むしろ、選手と一緒の空間で自分が学んできたものに追加しようとしている。

最近、
改めて「すごいな」と感じたものでした。


きょうは仕事に集中する日。
給料計算は終わった。
業者さん支払いの表をまとめて。
銀行に行って。

ポンプの修理をします。


(内柴 正人)

 

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◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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