【連載「生きる理由」36】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「僕と社会の壁」前編~弟子入り志願者現る

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昔の自分がやっていたトレーニングメニューを再開し、筋力が戻りつつある内柴氏。アスリートならではの肩甲骨も透けて見える
(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

 

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「僕と社会の壁」前編。最近になって、とある事情から柔道の道場通いができなくなったが、懸命に働く中で弟子入り希望者が現れたことについて。

 

 

仕事は徹夜も辞さず

きょうは親分の店のタンク掃除、ポンプの交換でした。とは言っても、温泉タンクが2つ、水のタンクが2つと、交換するポンプはでっかいのが2台。12時間ほど作業ですね。

風呂屋の作業は基本夜中。営業中はお客さんが風呂に入っていますから、お湯が減れば補給、水が減れば補給。タンクを掃除したくても営業が終わらなければ始まりません。

 

きょうは、その作業をして徹夜明けで帰宅。一瞬仮眠のようでしっかり寝て、その後、自分の店舗を閉めるところです。スタッフと妻はこの作業の大変さがよく分かる。なので、僕が帰り次第、店はいいから寝てくれと休ませてくれる。まるでメジャーな大会で優勝した日のように。

本当にそう。

 

書き残しておきたい内容の一つに、人として僕が好きな行動があります。

作業からの帰りしな、僕は軽い興奮と達成感と開放感から来る自由を感じながら車で自分の店舗へ帰っていました。

その時に感じたこと。

「試合で優勝した時の気分と同じじゃないか」

この感覚は、ここで働き始めてから何度も経験しています。

 

道場通いのきっかけ

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学生時代からやっていたトレーニングメニュー「ロープ引き」。先端にタイヤをつけたロープに対して垂直に立ち、体をねじって引く
(写真:本人提供)

最近、ほぼ毎日1人の大学生と過ごす時間があります。

とあることで、通っていた柔道場に行くことができなくなりました。僕の立ち入りを「控えてくださいと言いなさい」と言われた監督が、素直に「はい」と言えず。その上席にまで話が行き、加えて、学生の私生活での話など何か反対意見があったようです。

 

僕が道場に出入りするようになったきっかけは、もともと「どこからか横やりが入ったら、俺が身を引くからすぐに言ってくれ」とお願いした上で、学生にアドバイスをする約束をしていました。

もともとのもともとは、僕が「トレーニングをするために練習に参加させてほしい」から始まった話。最初は、アドバイスとかはしない予定でもありました。

 

毎回「きょうが最後かも」と思っていた

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「ロープ引き」は、体を側面にねじって引ききる。その反復
(写真:本人提供)

しかし、いざ行ってみると、小外刈一つ、前さばきも知らず、刈る角度を知っている者はおらず。それでも知らんぷりして、僕は自分の練習してればいいのだけれど、仲のいい学生に教えているうちに、全体へアドバイスするようになってしまったことは確かにありました。

ただ、僕がその道場に通うことについて、いつ監督にクレームが入るか分からないとは思っていました。ここまでの段階でも、監督が選手をスカウトする時などに、僕が道場に出入りしていることをとやかく言われてないか何度も確認したり、内心心配はしていました。

 

だから、畳に立った日は一所懸命に後悔ないように教えもしました。

だから、行ける日は「きょうで最後だ」と常に思って接していました。

 

そうは言っても連日行くわけではなく、8カ月で20回にも満たない回数で、きつい練習もしておらず、やったのはセミナーレベルのもの。だいたいの柔道の基本を教えて、残すはすり込み作業、反復作業に入るところでした。

まだまだフィジカルも赤ちゃんだし、物事をこなしきる精神力も何一つ鍛えてないんだよな、と思いながら、全体に教えるという大変さも感じつつ、このたび道場通いを終えました。

 

弟子入り希望者現る

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最近、趣味で始めた「金魚」。育てるのは難しいが、泳いでいる様子はつかの間の癒し
(写真:本人提供)

それから数日は、そろそろ自分のトレーニングをいつから始めようか。

これまでプライベートで風呂屋まで来てくれた学生たちにも声を掛けず、仕事、金魚、修理修繕の日々。それも楽しんでいます。

 

さて、個人的に教えて欲しいと言ってきた学生と僕のプライベートなトレーニングが始まりました。目標は、後に育てていくこと。

まずは、何となくやるのではなく、僕が若い頃やっていたトレーニングをすべてこなすことを目標としています。

学生はとにかくすべてのトレーニングをこなす。僕は昔の体力に少しでも近づく。でも、無理してやらないこと。似たり寄ったりです。

2人でやっていてお互いに思うことは「終わらない」。

練習メニューが終わらないんです。

「昔の俺ってスゲーな」

そんなおしゃべりばかりです。

 

終わらないトレーニングをやる中でいろいろと話します。そうすると、話し過ぎて進まない。でも、体力がついてきたら--

(内柴正人=この項目つづく)

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に60キロ級で全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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