2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。
これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「節約する話」。
勤務先の温浴施設では毎日小銭が生まれる中、1月17日から郵便局で硬貨取扱手数料が変更になったことで、仕事にまつわる「節約」に思いをはせた。
手数料に悩まされる
銀行では結構前から硬貨の入金に手数料がかかっていましたが、郵便局でもかかるようになりました。
僕が勤める風呂屋は小銭の商売。毎日200枚から、多い日は500枚の硬貨が生まれ、郵便局に入金しなければならない。手数料はかからないに越したことはない。
コイン式のドライヤーの使用料は20円。お客さんからいただいた20円を回収して、窓口で預けると51~100枚なら550円もかかる。大量の10円玉は郵便局に預けなかったとしても、買い物にも使えない。
手数料。
以前、手数料が無料の時にとある郵便局に入金に行ったら、「利益にならないので持ってこないでください」と頼まれたことがありました。
「じゃあ、どうすればいいの？」と思ったものでした。
それでも、申し訳ない気持ちもありながら、優しく対応してくれる郵便局に変えて通っていたのです。
手数料、かからないギリギリで入金するのも節約。
勤務する会社は「節約」がモットー
子どもの頃に父から受けた「節約」という言葉をこの会社でしっかり活かしてもいます。それでも、ほかの会社にいたとしたら、面倒だから適当に手数料払って楽をしていると思います。
節約、節約。これも節約。
つる乃湯八代店。僕の働く勤務地にはホテルもあり、僕がここに来てからずっとWi-Fiの電波の弱さに悩まされてきました。
前任の責任者さんは業者さんに委託していたようで、その兼ね合いから、増設するにしても既存の業者さんとの関係がありました。
自分で工事をすることも「節約」
業者さんに相談しました。機械はそこから買って、工事は僕がする。ID、パスワード、なんちゃらかんちゃら全部、業者さんが自分たちだけが使えるように変えてあり、僕たちが触れない。
「工事は僕がするのに、機械は業者さんから買うの？」
「電気屋さんで似た物を買ってきた方が安い」
いろんな話がある中で、ここの責任者は僕なので、そして、業者さんが間に入ったとしても工事は僕がする。
自分で買ってきて自分でつけた方が一番安いでしょう。
そんな話をして勝手に苦労しています。
それがついさっき。これも節約。
節約して、宿泊のお客さんにはいいWiFiをお届けする。
部屋の修理も自ら行う
うちのホテルでは、新しくなったテレビの機能にYouTubeやNetflixやAmazonプライムが入っていて見られるようになりました。
NetflixとAmazonプライムはお客さんのアカウントを使わないといけないんですけどね。
ホテルの部屋は何かが壊れると、僕の素人作業で直された跡がハッキリ分かります。なぜならば、まだ下手くそだから。
それでも、いろんなことをこの2年間やってきました。してきたことがすべて節約につながる。
無駄遣いと節約のはざま
さらに、最近では僕のトレーニングに付き合ってくれる学生がいます。風呂屋のバイトも入ってくれるので、手が空いてシフトの時間内だったりすると作業の助手をしてもらったりしています。
これは無駄遣い。
「人を使えば銭がかかる」
そう習っている中で、店を回すための人件費は仕方がない。作業は我慢して自分でやればいい。それは分かっているのですが、脚立の上で必要な物をひと声で手渡ししてくれる人がいると作業は1/3の時間で済みます。
仕事の中でいろんなことを節約してるんだなあ、と思うことがよくあります。
「節約」は見えない仕事
そんな僕の1日は、
朝、銀行へ。
昼、カップ麺を2個食べて買い物へ。
昼過ぎ、近所の中学生に柔道を教えて、夕方はフロントにいます。
フロントでホテルのWiFi取り付け工事の下準備をし、そこで顔を合わせる常連さんから「久しぶりね」。
店を閉めて売上を数え、ホテルへ忍び足で向かい、WiFiを2個増設。
お客さんからは「久しぶりね」「きょうは働きよるね」。
そんな言葉をきっかけに会話をしておりますが、フロントにいない時間、僕はいろんな節約の仕事をしてるんです（笑）。
節約。僕が動けば、「節約」なんだよなあ。
いろんな仕事を素人ながら工夫してできる場所です。
最後に「失敗も必要経費」。
失敗した時に心の中で慰める合言葉。
（内柴正人）
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うちしば・まさと
1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。
＃MasatoUchishiba
