【連載「生きる理由」56】柔道金メダリスト・内柴正人氏 ~手づくりの道場「泥だらけの畳」前編

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〝弟子〟との練習で、階段ダッシュに通う内柴正人氏(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「手づくりの道場」について。

勤務先の片隅に柔術マットを敷いたミニ道場をつくり、柔術の練習に励んできた。柔道の弟子入り志願者に指導するため、中古の畳を敷くことに。人づてに入手した畳は泥だらけだった。

 

 

 

手づくりの〝つる乃湯道場〟

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柔術マットを敷いた初期の〝道場〟(写真:本人提供)

僕くらいのタイトルを持った人が、こんなところでこんな少ない人数で柔道をしている。めっちゃカッコ悪いでしょ。
でも、僕にとってはこれがめっちゃカッコいい。相方のナカガワくんにとっても。

 

〝つる乃湯道場〟は知り合いから柔術マットの中古を売ってもらったところから始まりました。

 

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最初は1人でバランスボールに乗っていた(写真:本人提供)

柔術の練習のために、もともと店の奥にあったマッサージスペースに柔術マットを敷いたはいいけれど、練習相手もいない日々。妻と打ち込みしたり、1人でバランスボールで転がったりしているときに、自分でも「何してんだろ?」とか思いながらやっていました。

 

弟子が増えた

その頃のスタッフには「トレーニングして遊んでる」なんて上席に報告されて怒られて。24時間ここにいて、休み時間に練習していてもソワソワ感満載な時期もあり。

今は、柔道選手の学生と寝技のトレーニングができるようになりました。最近、〝子ども弟子〟が期間限定で入ってくれて柔道をしています。それでも、3人です。

 

弟子のためにも畳を用意したい

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中古の柔道用畳を敷くことができた最近の〝道場〟(写真:本人提供)

柔術しているときに僕は柔道をしない。そう決めているので、今まではそれで良かった。でも、柔道をするにはこれまでの柔術マットだと素材が違い過ぎるんです。微妙な感覚が気になる。

今、期間限定の子ども弟子。もう半年以上、柔道選手なのに僕の柔術の練習パートナーを務めてくれるナカガワくん。

柔道の打ち込みくらいは教えてあげたい。

感謝の形。

 

柔道の畳。2人きりの練習に新品の畳。

僕には柔道の試合はない。ナカガワくんは普段、柔道は大学でやっている。だから、畳は欲しかったけれど、以前は必要ではなかった。

 

柔術のレベルアップのためにも

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〝弟子〟ナカガワくん(左)の打ち込みを受ける内柴氏(写真:本人提供)

昨年末、僕は試合に負けました。柔術の試合で初めて負けた。その要因は基本の反復不足。それだけではないけれど。

いつか負けておきたかったから、負ける形になってしまったから負けたのですが、負けたこと自体は気にしてないんです。

 

さて、どうやって柔術と向き合おう。今やっている打ち込みが正しいのか分からない。でも、やるしかない。技をネットで調べるけれど、やってみてもがむしゃら。

一番得意な柔道の立ち技で考えると打ち込みの引き出しは果てしなくあり、それを柔術寝技に変換すればいいはずなのにできない。

 

じゃあ、立ち技の打ち込みから入ろう。

柔術のためのアップは、柔道の立ち技の打ち込み。けんか四つ、相四つ。正面でやりやすい形からシミュレーション。

 

僕は、崩して作って掛けて投げ切るところまでの打ち込みが得意なんです。現役の頃は毎日何時間もやって感覚を合わせていました。

 

やっと見つかった畳は泥だらけ

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今度は打ち込みを受けてもらう内柴氏(右=写真:本人提供)

立ち技の打ち込み。

柔道の畳が欲しい。

 

柔道時代の後輩に「中古でいいから、いらない畳を探してほしい」。

頼んで待つこと数カ月、本当は随分前から欲しくてお願いしていました。

 

それが昨年見つかって、トラックを借りて受け取りに行ったら、ほとんどゴミのように汚い。3歩歩いたら足の裏が泥だらけな元道場。

べこべこ畳、ぺこぺこ畳。

穴が開き、腐り、ヘタり。

 

念願の畳~大雨の日に自力で運び出す

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泥だらけだった中古の柔道畳をきれいに清掃して敷き詰めた(写真:本人提供)

お願いした後輩は、普段世話になっているからもらってきてくれる、と言っていたけれど、質の良い状態の畳でないと、もらって使えない、となっては困る。

そして、そんな私的な事で面倒な事に後輩を使いたくない。

 

そんな思いから自分で行ったけど、行って良かった。使えるもの使えないもの。時間をかけてみて選別しました。畳の周囲を踏んで回って選び、ほこりまみれの畳をトラックに積みました。

 

大雨の日のことでした。

(内柴 正人=この項目つづく)

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

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