【連載「生きる理由」73】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「チャリティー柔道教室の開催を決意した話」~6月18日愛知、19日東京

6月18日(土)まずは愛知県・刈谷市で柔道教室を開く(写真:事務局提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「チャリティー柔道教室の開催を決意した話」。

 

キルギス共和国の総監督時代の教え子たちが、柔道修行でまもなく来日予定。
彼らの渡航費用、活動費をサポートするために、チャリティーとしてこれまで長年封印してきた柔道教室を開催することを決めた。
その思いとは何か。
柔道教室で配布する予定の冊子から、内柴氏本人が実際にペンをとって記したあいさつ文をまとめた。

 

 

 

開催の理由~キルギスの大学生3人が来日

キルギスの教え子からは定期的にSNSやネット電話で連絡が来る。
そのうち3人が来日予定(写真:事務局提供)

このたび、チャリティー柔道教室を開催することになりました。
今月18日に愛知県刈谷市、同19日に東京都中央区です。

 

僕は現役時代も今も、自分のためだけに頑張ることができない性質です。
今回は、キルギスで教えていた学生3人が柔道の勉強のために来日したい、という思いを聞き、
少しでもその助けになりたいと感じ、
僕ができることをやろうという考えに至りました。

 

Arabave Kyrgyzs State University(アラバエヴ大学)から日本へ柔道の勉強をしたいという学生が3人います。
3人の学生は私がキルギスに赴任していた間だけでなく、日本に帰国してからもずっと練習や試合の報告をし合う教え子です。

 

今回の来日は、職業訓練実習生として。
もちろん、仕事をキッチリやるという条件で、空き時間に柔道をする。

 

実は、この話は数年前からありました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大があり、戦争があり、私の力不足もありで、なかなか実現できずにいたのです。
彼らも大学4年生になり、大学生活で最後の夏休み、最後のチャンスでやっと実現したものです。

 

人をサポートできるわけがないとあきらめかけていた

キルギス総監督時代、柔道着の胸にはキルギス共和国の国旗が(撮影:丸井 乙生)

ただ、私が勤める温泉施設だけでの受け入れは本来、とても苦しいものです。
感染症流行による、来客の減少、熱料費の高騰。
それなのに、風呂の料金は400円(熊本県)と上限が決まっています。

 

何も考えずに人件費を遣って仕事をスタッフに任せれば、キルギスからの学生をもう少し早く呼ぶこともできたでしょう。
しかし、日本の片隅で、一つの店舗を任され、従業員とお客さんの生活の場所を守るために、私ができたことといえば、とにかく節約することでした。
そうしなければ、今の仕事、温泉施設はつぶれていたかもしれません。

 

これは私だけでなく、私が勤める会社全体で一丸となり、この苦境を乗り越えようと商売していることでもあります。


「このような状態で人をサポートする力があるわけがない」


社長にキルギスの学生たちのことを相談することもできませんでした。

 

誰かの役に立ちたい

19日(日)には東京都・中央区で開催される(写真:事務局提供)

仕事での苦しみ。それは僕にとって、幸せなことでもあります。

ただ、僕は誰かに頼まれたことができないことが一番苦しいし、悔しいです。
それが柔道に関することなら、なおさらもどかしい。

 

「誰かの役に立つからこそ喜びがある」

自分が常々思っていることなのですが、今の会社に入り、社長をはじめ先輩方にも、とても良くしてもらっています。

 

自分はこの会社の役に立っているのか、いつも考えます。
他店舖にヘルプで呼んでもらえることもあれば、人件費を減らしている分、自分でフロントに立って、修理もします。


油に、薬品に、泥だらけ。
見た目は大変でも、やりがいを持って働いています。 

修理をすると、そんな汚れが手全体につき、石けんでは取れません。
流しでスポンジと洗剤を使って、焦げた鍋を磨くように手を洗います。

そして、そこまでしても直せていない機械もあります。
めちゃ悔しいのです。

修理は当然、素人ですので分からない。
ネットで調べ、先輩に習い、今ではある程度のものは直せるようになりました。
壊れた機械が正常に動いた時は、柔道の試合で優勝した時のようにホッとします。

 

柔道はどうでもいいと思いながらも…

キルギスの伝統衣装に身を包んだ教え子(写真:本人提供)

日々の暮らしの中で、週に一度柔術をして、週に二度、仲の良い近所の家族と柔道をしています。
僕個人はもう、これで十分。
そう思っていました。

 

仲の良い家族の中に弟子がいて、その弟子に話すのです。
「キルギスで特に仲の良かった選手がいる。お前と勝負させたいよなあ」
熊本弟子VS.キルギス弟子、一生かなうことがないだろう。
そう思っていましたが、何かの巡り合わせで、今回実現できることになったのです。

 

柔道でご飯が食べられていない今、
「柔道なんてどうでもいい」という気持ちがないわけではない。

 

でも、面白いものです。
今、教えている学生、子どもたち。
この子たちの試合や練習を動画で見てしまうと、何時間も何日もかけて一つのこと、先のこと、すべて教えてしまいます。


この大矛盾を素直に受け止めて、仕事と柔道の時間を過ごしています。

 

2024年にはフランス・パリでオリンピックが開かれます。
今回、来日した学生の中からキルギス代表が出るかもしれません。
はるばる遠い国から、日本で柔道の修業がしたいという若者を応援していただけると幸いです。

(内柴 正人)

 

◆6月18日(土)愛知、同19日(日)東京でチャリティー柔道セミナーを開催

アテネオリンピック・北京オリンピック柔道男子66kg級金メダリスト内柴正人による、
柔道セミナーを開催いたします。

このセミナーでは「攻めに繋がる受け方」の習得を目標とし、受け方の基本から学んでいきます。そこから、崩しの基本などを伝授する超実践型の内容です。

このような急なスケジュールでの開催を決めた理由につきましては、以前、内柴が総監督を務めたキルギス共和国の選手支援が目的です。
以前、指導していたキルギス人選手3人がこのほど3カ月間日本に滞在し、仕事の研修もしながら柔道を学びにくることになりました。
少しの間ですが、彼らに柔道と向き合う環境を少しでも整え、金銭面にもサポートしてあげたいと考え、内柴本人が選手たちのためにできることをしたいと立ち上がった次第です。このセミナーにもキルギス代表候補3選手が参加いたします。

なお、参加者のかたには、内柴が実際に執筆した技術論、考え方についてまとめた冊子を配布します。

 

<愛知開催>
【日時】6月18日(土)午前9時30分~昼12時
【場所】愛知県 刈谷市体育館(〒448-0838 刈谷市逢妻町4丁目32番地)
【参加費】事前振り込み 5000円(15歳以下3000円)/当日払い現金6000円(15歳以下4000円)

<東京開催> 
【日時】6月19日(日)午後5時30分(受付)/午後6~8時(セミナー)
【場所】東京都 中央区総合スポーツセンター第1道場(〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町2丁目59番1号 区立浜町公園内)
【参加費】事前振り込み 5000円(15歳以下3000円)/当日払い現金6000円(15歳以下4000円)

 

【申し込み】

piiita6u6@gmail.comまで

参加希望の方はメールにてお名前、電話番号、
事前振込、当日支払いのご希望を記載し、ご連絡ください。

 

※また、参加者、見学者のかたは前日~入場2時間前までにPCRまたは抗原検査キットで新型コロナウイルスの検査をお済ませの上、陰性結果のメール、写真など陰性結果が分かるものをお持ちください。

※体調が優れない方、当日現場にて37度以上の発熱がある方の参加、見学は御遠慮願います。

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信開始

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に週1回開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

 

www.youtube.com

 

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

MasatoUchishiba

 

 


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