【連載「生きる理由」77】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「斉藤仁先生から学んだこと」②~気づけば伝えている師匠の教え

内柴正人

休日は、海のないキルギス共和国から来日した教え子たちを海に連れて行き、流木を枕に浮かぶ。奥が内柴正人氏(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「斉藤仁先生から学んだこと」②。

 

大学時代は全体練習のほかに単独トレーニングを行い、斉藤先生から「意味がないトレーニングなんかやめろ」と言われながらも意地で続けてきた。

そして今、弟子入りしてくる若者たちには斉藤先生の技術に、自身が培った力を組み合わせて指導している。

そこに至った心境とは。

 

また、8月27日(土)14時~、チャリティー柔道セミナーを大阪で初開催することが決まった(詳細は下記)。

 

 

若い頃の自分に負けないように

今の職場に来て間もない頃、何をやっても愚痴を言われてばかりで、

分からないことをやらなければいけなかった2年前。

 

オリンピックを目指していた時のような夢があるわけではないけれど、

まずはやるだけやってみよう。と思えたのは、

今も持っている気持ちとして、

若い頃の自分に負けないように過ごしたいだけなのかもしれない。

 

突き進む力

内柴正人

上手に浮かぶ秘けつは、内柴氏の柔道のコツ「脱力」「軸」が必要。内柴氏(奥)は長時間浮かんでいられるが、教え子たちは苦戦(写真:本人提供)

大学の頃は結果的に大学日本一にしかなれず、オリンピックには出られなかったのだけど、

その4年後に日本代表になり、

夢をかなえられたのは、

自分の信じる努力を認めてもらえなくても、突き進む力があるからかもしれない。

 

簡単に言うと、認められなくてもあんまり気にしてない。

 

斉藤仁先生の技術の部分を一番習得しているのは世界で僕だけだろう。

 

守破離

内柴正人

仲間をかついでの階段トレーニング。キルギスの教え子、そして熊本で就職後に出会った学生がレギュラーメンバー(写真:本人提供)

間違いだらけでも、突き進めば何かが残る。

 

僕がいた頃の国士舘大学には夢がかなう何かはなかったと書きましたが、

あんなにフィジカルトレーニングをしていた僕も今、

高校時代の先生の教え方、斉藤仁先生の技術、

そして、自分の根気強さを合わせて、いかに力を抜いて軸と重心の移動を意識するかを人に教えている。

 

一対一でも、日本人ではない、ひょっこり現れたキルギス共和国の選手を相手にしても「力を抜け」と。

 

あなたが持つフィジカルは、脱力する意識と軸と重心の移動のために使うのだ。

 

 「やっと終われた」という気持ちもあった

内柴正人

学生たちのために、キルギス料理を作ることができる方が来訪して腕をふるってくれた。教え子たちは大喜び(写真:本人提供)

型を抜いたところに同じ形をはめるように、そこに飛び込むための体幹のコントロール。

そんなことを教えるようになったのも、若い頃の僕が質より量をこなし、たくさん失敗してこられたからだろう。

 

今の仕事、過去の自分、変われているようで何も変わらない自分があり、

同じ物事をまったく違う感覚で考えるようになった自分もいて、

生きているだけで面白いものだと今は思う。

 

 

チャンピオンとしてチヤホヤされて世間知らずでいた方が、ずっとラクができたのかもしれない。

 

ああ、ラクしたかったなあ。

そう思う日もあるけれど、立場を失ったあの日に思ったたくさんのことの一つに、「やっと終われたなあ」という気持ちも正直ありました。

 

(内柴 正人=この項つづく)

 

◆8月27日(土)柔道セミナーを大阪で初開催

キルギス共和国から職業研修で来日している大学生3人の柔道活動費を支援するために、6月に愛知県、東京都でチャリティー柔道セミナーを開催した。

今回は大阪で初開催、2部制で行う。。

・日時:8月27日(土)1部=14時30分~16時30分(セミナー)、2部=17~19時(練習会)。受付が14時より。

・場所:エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育館)=大阪市浪速区難波中3-4-36

・参加費:1部(セミナー)のみ参加=事前振込5000円(15歳以下は3000円)、当日支払い6000円(15歳以下は4000円)、1、2部ともに参加=事前振込8000円(15歳以下は5000円)、当日支払い9000円(15歳以下は6000円)。

・申し込み:piiita6u6@gmail.comまで。参加希望の方はメールにて、お名前、電話番号、事前振込、当日支払い、どちらのご希望かを記載してご連絡ください(事務局より)。

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信開始

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に週1回開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。

詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

 

www.youtube.com

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

#MasatoUchishiba