【連載「生きる理由」87】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「教えることで分かった話」②~方針は二つあった方がいい

自作Tシャツを着用する内柴正人氏(撮影:丸井 乙生)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「方針は二つあった方がいい話」。

 

久々に本格的な技術指導を行った内柴氏は、人に教えることで改めて柔道について考えることがあったという。
金メダリストが44歳で気づいたこととは。

 

 

 

意外な考え方「二つあっていい」

人に教える時は、記憶に残る「やってきたこと」がどうしても前に出てきます。
現役の頃に必要な部分です。
それをやっていると、時間もなくなる上、やった気になるのです。

でもね、
僕が人と少し違う技術をやっていた時間は、チームの練習以外の時間なのです。

最近、教えている子にはよく言うのだけど。
ここで習ったことは自分の中にあるスタイルであって、実際は、チームの方針に従いながらいかにその部分を使うのか、がカギとなります。

方針は二つあった方がいい。

 

どちらもやりきる

2022年6~8月は全国3カ月で柔道チャリティーセミナーを開いた(撮影:丸井 乙生)

すなわち、チームはチーム、その中で自分の方針があり、両立することで柔道に厚みが増すのです。

だから、
内柴に習ったことだけを素直にやるだけでなく、それだけでは足りないということは僕が自分を思い返せば分かることなのです。

 

よくよく思えばそうなんです。

 

国士舘にいても、
野村忠宏さんを倒してオリンピックに出て金メダルを獲ることが夢だった僕にとっては意識のレベルが低すぎて、
世界を見据えて自分の練習をするけれど。
それだとワガママと言われて、どちらもやりきれるようになるまで1年かかりましたが、2年生の冬にはそれで野村忠宏さんに勝っています。

 

練習は地力を上げることが目的

技について説明する時は「拳一つ分」など言語化する(撮影:丸井 乙生)

全日本の合宿でも、トップの選手相手に投げることができないから、だいたいの人は試合をしちゃうんです。
でも、それは「投げられない練習」になる。

僕は投げられるくらいしっかり相手に柔道させながら、投げられながら練習していました。
もちろん投げられて怒られ続けたけれど、試合のような練習は試合でやればいい。
地力を上げる練習しなきゃ、世界のトップに試合で勝てない。
そう思っていたんです。

 

まねした後に何を生み出すかは本人次第

柔道の話になると、なかなか終わらない(撮影:丸井 乙生)

しかし、教えている子たちの所属に僕が行って見てあげることはできないので、教えた後は「勝手にやってくれ(笑)」と放置します。

それでも確認して欲しいのでしょう。たまにビデオを送ってきてくれます。

 

僕の柔道とは、斉藤仁先生の教えを守り、野村忠宏さんに憧れてまねてみて、国士舘の練習方針を誰よりも率先してやり切った先に生まれたものなので、
今教えている選手たちが何を生み出すのかは、その選手次第。
結果を出すかどうかも選手次第。

楽しみではあるけれど、
本音はね、
その選手が現役を辞めるまで追いかけてあげたい気持ちは強いです。

頑張れ!

 

(内柴 正人=この項おわり)

 

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。

詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

 

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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