【柔道】五輪連覇の内柴正人氏が初のチャリティー柔道セミナー開催~愛知、東京で「小内刈り」

動きを一つ一つ分解して言語化し、詳しく説明する内柴正人氏(撮影:丸井 乙生)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏が19日、東京・中央区総合スポーツセンターでチャリティー柔道セミナーを開催した。

18年から約1年間キルギス共和国で総監督を務めた時代の教え子が、来日しての職業研修を熱望したことを受け、柔道の稽古もできる環境を整えてあげたいとチャリティーイベントを開催したもの。

18日の愛知・刈谷市から県をまたいで2日間行い、主に「小内刈り」をテーマに「攻めにつながる受け方」についてレクチャーした。

収益金は経費を除いた金額がキルギス留学生の渡航費に充てられる。

 

 

 

キルギスの若者のために

19日の東京開催では、今回のチャリティーセミナー実施の目的であるキルギス留学生3人も合流してあいさつ(左から3人)。内柴氏(右から2番目)が紹介した(撮影:丸井 乙生)

教え子のためにひと肌脱いだ。

内柴氏は日本の柔道界を離れてから、柔道教室などのイベントは行わず、18年春~19年秋にキルギス共和国で総監督として指導した後も開催することはなかった。

内柴氏が担当したキルギスの選手たちは、帰国後も「センセイ」と呼んで慕い、SNSなどで海を越えて近況報告。柔道の映像を送ってきては意見を仰ぐという関係性が続いていた。

 

今回は、大学で観光系の学科で学ぶ教え子3人が、3カ月間の職業研修で来日を熱望。現地ではトップクラスの選手たちでもあり、せっかく来日するのであれば、柔道の練習もできる環境を何とかつくってあげたいという思いがこみ上げた。

これまでは「求められたら教える」というスタンスを貫いてきたが、今回は人のために立ち上がることにした。

 

イベント発案は夫人

キルギスの留学生(左)をパートナーに、動きを説明する内柴氏(撮影:丸井 乙生)

イベント開催の発案は、18年春に結婚した夫人だった。夫人はキルギスでも、内柴氏の指導をアシスト。今回来日する学生にも夫婦そろって指導、交流を続けてきた。

 

渡航費の一部だけでも何とか出してあげたいという思いから、内柴氏に提案。開催自体を不安に思う夫と話し合い、来日3週間前にまずは19日の東京・中央区で開催することを決めた。さらに、18日には内柴氏の後輩の縁で、愛知・刈谷市で行うことも決定。会場選びから、募集要項、メールでの受付などの準備を一手に担い、裏方として奮闘した。

 

数千字の「柔道概論」を突貫で執筆

参加者に配布された冊子の冒頭。このほかに、今回の「攻めにつながる受け方」を知るにあたっての概念などを含め、数千字にまとめた冊子を配布した(写真:本人提供)

内柴氏は、本当に参加者が集まるのかが不安だったというが、急きょ開催にもかかわらず、愛知、東京ともにほぼ定員の希望者が集まった。

そうと決まれば、熱量が高い内柴氏は当日に配布する説明書を書き始めた。動き方を示す、本人ならではの柔道用語「エッジ」「ボックス」を使いながら、技を一通り見せる講習内容ではなく、固定概念とは異なる実践的な「受け方」について総論を執筆。数千字にも及ぶ手書きの内容を、夫人が書き起こして冊子にまとめた。

 

節約のため、熊本からレンタカーを借りて900キロ以上移動した内柴氏(写真:本人提供)

仕事もあるため休みの日数を最小限にとどめ、かつ節約し、そして帰りは教え子3人も乗せるためにキャンピングカーをレンタル。途中で愛知県でも柔道セミナーを開催しながら、約900キロを夜通し走り抜くという長旅に出た。

 

反応に不安も…開催後に〝目からウロコ〟の声

実際に動きを見せながらレクチャーした内柴氏(撮影:丸井 乙生)

19日の東京開催では、子どもから大学生、そして大人まで幅広い年代の参加者が詰めかけた。「小内刈り」だけで2時間を超える講習となり、参加者は内柴氏の理論や動きを反復練習しながら、理解を深めた。

 

子どもたちの参加が多かった愛知開催では「おお~」「なるほど~」のような相づちが多かったが、東京開催では静かに進行したため、内柴氏は「教え方がへただったかな…。分かりづらかったかな」と心配。そのまま車に乗り込み、再び約900キロの道程を夫婦で交代交代に運転しながら、夜走りを続けて熊本へ帰り着いた。

 

セミナー後、キルギスの留学生を乗せてすぐに熊本へ出発(撮影:丸井 乙生)

しかし、セミナー後に参加者から「今まで自分がやってきたこととはまったく違う内容だったので驚いていた」「そこまで考えてやるものなのかと、認識を新たにしました」などという声が寄せられた。

 

講習中に内柴氏と組んだ大学生の参加者は「うれしかったです」。

「新しい知識というか、自分が感じたことのなかったものを吸収できました。やっぱり五輪を連覇している方なので、僕が何となくやっていたことでも、一つ一つの動きが考え抜かれているのだと感じました」と目からウロコの2時間超だった。

 

19日の東京開催には多くの人が詰めかけた(撮影:丸井 乙生)

事務局によると、2日間の収益金で留学生3人の渡航費の半分を賄うことができたという。今後のセミナーについて、内柴氏は「自分のためにはやらないです」としているが、求める声があれば第3回の開催もあるかもしれない。

(丸井 乙生)

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信開始

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に週1回開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。

 

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

MasatoUchishiba

 

 

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