日本各地のお国柄を、地元民が愛とツッコミで解説する連載「ふるさとトリビア」。
今回は、愛知県特集の後編。独特な文化を誇る愛知県の「三河弁」についてご紹介する。
天下人・徳川家康が生まれ、長らく拠点とした愛知県東部の三河地方。
その出身者と会話していると、聞こえてくるのは特徴的な響きの語尾。
「じゃん」に「だら」に…「みりん」?「こりん」!?
他県民にとっては〝愛知弁〟として同じように聞こえなくもない方言は、「尾張弁」「三河弁」「名古屋弁」の3種類に分かれるという。
標準語と方言を使いこなす愛知県民が分析した。
- 「じゃん」~予想外の意味を併せ持つ曲者
- 「だら」~発言者に自信があるかないか判別可能
- 「りん」~あなたを思いやった命令
- 若者世代の継承は三河弁>尾張弁かも?
- もしも家康が「ホトトギス」を三河弁で詠むなら
「じゃん」~予想外の意味を併せ持つ曲者
三河弁を代表する方言は、それぞれ特徴的な響きと意味を持つ「じゃん」「だら」「りん」という語尾トリオ。
三河弁の代名詞「じゃんだらりん」、そのユニークさをご紹介したい。
まずは「じゃん」。
念押しの「ね」が付属して、「じゃん+ね」としての使用頻度が高い。
語尾にいくにつれて上り調子になるところが特徴で、「~じゃんねえ?」といった具合。後で紹介する「だら」「りん」に比べて使用頻度は少なく、レア語尾だ。
「~じゃん」であれば、標準語では「確認」の意味になる。
たとえば、一緒に中日戦を見に行った友人に対して、「この前、バンテリンドーム行ったじゃん」と言うと、「あなたも知っていると思うけど…」「そういえば、この前一緒に行ったよね」という、お互いに共通した理解や経験を「確認」する意味が含まれる。
この使用方法は三河弁ユーザーも同様で、相手がすでに知っている話題を切り出す時に用いられる。
しかし、「じゃん」が持つもう一つの意味が、事をややこしくしている。
(日本を代表する車メーカーといえば、やはりトヨタ=トヨタ自動車株式会社 公式YouTubeより)
それは「報告」。何と、相手が知っていない話題を切り出す時にも、「じゃん」が用いられるのだ。
たとえば、一緒に中日戦を見に行っていない友人に対して、「この前、バンテリンドーム行ったじゃん」と言うとする。これは「あなたは初耳だと思うけど、実は…」という具合で、相手が知るべくもないことを話題として切り出している合図なのだ。
標準語にすると「~なんだけどさ」に相当するが、「じゃん」を「確認」の意味のみとして用いている方にとっては何ともややこしい状況。
三河弁ユーザーとの会話中、自分の知らないことをいきなり「報告」されて、「そんなこと知らないよ!」と思っても、突っ込む気持ちを抑えて話を聞いてやってください。
「だら」~発言者に自信があるかないか判別可能
続いての語尾は「だら」。
「~でしょ?」「~だよね?」「~だったよね?」のように、相手に同意や確認を求める時に用いるものだ。
標準語で「~でしょ?」と聞く時、語尾のイントネーションは「~でしょ?↑」と上り調子になっている。
対して、「~だら」の通常バージョンは、「~だらー」と平坦に伸ばすイメージ。意味合いとしては疑問符「?」が入っているが、語尾は上がらない。
筆者の感覚では、8割くらいの「だら」が「~だらー」。
たとえば、「月曜って4時間だら」とか「あの先生の車ってトヨタだら」という按配で会話に登場する。
返答は標準語と同じように、「そう」「そうだよ」や「違うって」など。
それでも、残りの2割ほどは「~でしょ?」のように上り調子バージョンとなり、「~だら?↑」に変形する。
この分かれ目は、発言者が同意や確認を求めたい事柄に自信を持っているか、いないか。
自信を持っていれば、通常バージョンの「~だらー」で事足りる。
しかし、自信を持っていない事柄で、相手に真偽を確認したい時に疑問符を付け、「~だら?↑」に変形するというわけだ。
「宿題って、あすまでだら?」「三重県の県庁所在地って、伊勢だら?」などと、三河弁ユーザーに上り調子バージョンの「だら」を向けられた方は、優しくていねいに返答してあげてください。
「りん」~あなたを思いやった命令
最後にご紹介する語尾は「りん」。
動詞+助動詞のように、「食べる」+「りん」で「食べりん」、「行ってくる」+「りん」で「行ってこりん」のように合体する。
「こりん」は「こりん」でも、タレント・小倉優子さんが出身地と称していた「こりん星」のことではない。
「~りん」は相手に対して、すぐさま行動を促すためのもの。
標準語では「~したら?」「~したらどう?」に相当するが、それよりも度合いはやや強め。
「~したら?」の場合、「~した方がいいと思うけど、するかしないかはあなた次第だよ」といった感触がある。選択の余地が相手に与えられていて、オススメの行動を示す「提案」に近い。
一方の「りん」は、「提案」というより「命令」に近く、「早くやりなさい」が近いだろう。
それでも、行動自体の内容はすぐ対応できるものであるため、「軽い命令」ともいえる。
「お菓子買ってこりん」、「冷めないうちに食べりん」、「それやってみりん」のように用いられ、目の前の事柄に対してライトな動きを促すものだ。
「命令」に近いものではあるが、発言者の意図は、決して「私のために~しろ」ではない。むしろ、「(あなた自身のためになると思うので)~しなさい」といったニュアンスで、「推奨」の意味合いも多分に込められている。
三河弁ユーザーに「外に行ってこりん」と言われた時には、「出て行け!」ということではなく、「外でリフレッシュしてきて」という意味だと思います。言い切りの形で少しキツイけど、意図を理解してやってください。
若者世代の継承は三河弁>尾張弁かも?
最後に三河弁の使用状況について。
筆者は若年層の三河人の知人が多く、中高年層との関わりはわずかであるため、若い世代の継承状況についてお伝えしたい。
「じゃん」「だら」「りん」の三大語尾に代表される三河弁は、若い世代も継承している。
三河弁一筋でゴリゴリの若者はなかなかいないが、「だら」「りん」は日常会話で使用される。
といっても、クラスメートや先生との会話で発せられることはあまりなく、オフィシャルな場面では標準語が優勢だ。
しかし、友人などプライベートで親しい関係の間ではよく使われる。
ふだんは標準語を話しているために、三河弁モードの時には「自分たちは今、三河弁を話している」という意識が頭のどこかにある。
若い世代の一番人気は「りん」。
無意識に使う人も多いが、三河弁が染み込んでいない人でも好んで使用する場面が多々ある。
ということは、若い世代が三河弁をプラスに捉えているということ。
三河弁を「ダサい」と評価する傾向もほとんどなく、自分たちのユニークな言葉として積極的に評価、誇りを持って使用している若者が多い。
継承の成否に関しては、前回ご紹介した尾張弁と比べて明るい未来が待っていそうだ。
もしも家康が「ホトトギス」を三河弁で詠むなら
現在の愛知県・岡崎市で生まれ、江戸幕府を開いた三河の大先輩、徳川家康さん。
後世の若い三河人が地元の言葉を継承している状況に、改めて三河の地を誇りに思っているに違いない。
三河弁の永劫なる継承を願って、家康さんに「ホトトギス」の俳句を三河弁で詠んでいただこう。
鳴かんじゃんね
鳴くまで待ってみりん
ホトトギス
徳川家康
(編集部見習いコイケ/mimiyori編集部=この項おわり)