ノムさんの無理難題に葛藤した
2020年6月19日、新型コロナウィルス感染拡大で延期されていたプロ野球がついに開幕した。高津臣吾にとっては、ヤクルトの監督として初めて指揮を執るシーズンとなる。開幕前日(18日)には、球団公式ツイッターに直筆メッセージと開幕スタメンを発表。異例の形で、開幕を待ちわびていたファンへの思いと今季にかける自身の意気込みを示した。
本書では、その高津が現役時代に当時の監督だった野村から、無理難題をふっかけられた思い出を語っている。不可能と思われた指揮官の要求に初めは戸惑い、疑い、それでも信じて、試行錯誤して、不可能を可能にした過程を、高津の葛藤とともに知ることができる。野村との師弟関係で成立した“産物”こそが、高津の宝刀となり、日本を代表する守護神に昇りつめる原点になった。
「こんなことできないよ」からのスタート
選手を指導する立場となって、野村の指導方針をより理解できるようになったという。「だいたいは『こんなことできないよ』ってところからスタートしますよね」。それでも自身が成し遂げられた理由を冷静に分析し、現在は選手を教える際の参考にしている。
一方で、現役時代はシーズンオフの歌番組でアフロヘアのカツラをかぶり、意外な美声で視聴者を笑わせていた明るいキャラクターの高津らしく、選手に対しては楽しく寄っていく、野村とは真逆のアプローチを仕掛けているという。
ヤクルト監督として恩返しを
19年12月に監督就任のあいさつのため、高津は野村を都内の自宅に訪ねている。「お前が監督か。他におらんのか」と“らしい”言葉をかけられたが、人を育てることに情熱を燃やした野村だけに、最高の恩返しになったはずだ。シーズンが始まるのを楽しみにしていたというが、高津が新監督としてスタートを切ったばかりの2月、沖縄での春季キャンプ中に野村は他界した。「またボヤいてほしかった」と涙していた愛弟子が采配を振るう姿を、今は天国でボヤきながら見守っているに違いない。
(mimiyori編集部)