読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
毎年、冬になるとロシアのシベリアから日本列島各地に飛来してくる白鳥。関東にもいくつか有名な白鳥飛来地があるので、今回は千葉県印西市の「白鳥の郷」から茨城県潮来市の「白鳥の里」までサイクリングしてみた。
水田の中に突如現れる「白鳥の郷」
白鳥が冬に日本に渡ってくるのは、凍結したシベリアの大地を離れ、エサを求めるため。毎年10月~3月ごろに日本にやってきて越冬するが、中でも数が多いのは12月~2月の寒い時期のようだ。朝夕は飛来地の池などほぼ決まった場所にいるが、昼間はエサを探して周囲を飛び回っているらしいと、事前に生態をチェック。何せ今回は動物が相手なので、せっかく出かけても確実に見られるとは限らないので、ちょっとドキドキだ。
まず向かったのは千葉県印西(いんざい)市の「本埜(もとの)白鳥の郷」。12月上旬、未明に自宅を出発して、日の出直後の午前7時前にJR小林駅近くの駐車場に到着。気温3~4℃と南関東ではほぼ真冬の寒さの中、準備してスタートする。
3~4kmほど東へ走ると、周囲は稲刈りが終わった田んぼが広がる。その中に、一面だけ水が張られた田んぼが見える。そこが目指す「白鳥の郷」のようだ。
自転車は近くまで近づけないので、少し離れたところにとめて100mほど歩くと、朝日に照らされた水田で多くの白鳥が漂っていた。すでに10人前後先客がいて、写真を撮ったりしている。自分も今回はズームレンズ付きのミラーレスカメラを持ってきたので、水面で翼を広げたり、飛び立ったりする迫力ある写真を撮ることができた。
白鳥ウオッチング
日本に渡って来る白鳥は、主にオオハクチョウとコハクチョウの2種類。この「白鳥の郷」はコハクチョウの方が多いそうだ。見分け方はもちろんコハクチョウの方が一回り小さく、クチバシの黄色い部分もオオハクチョウと比べて小さいそうだが、素人目には簡単には区別がつかない。
近くの掲示板によると、前日までに451羽飛来してきたという。ぱっと見、白鳥の顔の見分けもつかないし、じっとしているわけでもないので、どうやって数えているか気になるところだが、おそらくこの日も同じくらいの数の白鳥がいたようだ。
この「白鳥の郷」は最盛期で1000羽以上集まる全国有数のスポットだが、初めて白鳥がやってきたのは約30年前の1992年10月とまあまあ最近のこと。農業用水路の工事のため水田に水を溜めていたところ、たまたま6羽の白鳥が舞い降りたという。その後、約3年かけて餌付けに成功し、水田の持ち主からも水田を提供してもらい、地元の「本埜白鳥を守る会」のみなさんが保護をして、年々飛来数が増えてきたとのことだ。
白鳥とツーショットも可能! 「白鳥の里」
20~30分ほど観察と写真撮影を楽しんだ後、ここには再び夕方戻ってくるとして、次は茨城県潮来(いたこ)市の北浦湖岸にある「白鳥の里」を目指す。5kmほど北に走って利根川に出ると、川沿いはサイクリングロードが整備されていて走りやすい。この日は他のサイクリストや散歩している人も少なく、自分のペースで思いっきり走れた。
東に向かって25kmほど利根川サイクリングロードを走って、水郷大橋を渡り、茨城県側へ。さらに北に進んで潮来(いたこ)市に入り、北浦の湖岸に出る。北浦は霞ヶ浦の一部とも言われる湖だが、霞ヶ浦同様に周囲はサイクリングロードが通っている。湖岸にはカモがいっぱいいて、自転車が近づくと一斉に飛び立っていった。
北浦沿いを少し走ると、先ほどとは字が違う「白鳥の里」に到着。千葉の「白鳥の郷」からは約45kmのサイクリングだった。
この「白鳥の里」は幅30mほどの小さな浜。ここも白鳥が多くいるのは朝方と夕方のみで、すでに時刻は午前10時半を過ぎていたので、もういないかなと思っていた。しかし、カモやユリカモメの大群の中に2羽の白鳥がのんびりと散歩していて、人が近づいても逃げたり、飛び立ったりはしない。
この白鳥はコブハクチョウといって、その名の通りクチバシの根元に大きなコブがある。オオハクチョウ、コハクチョウのようにシベリアからの渡り鳥ではなく、もともと外来種で、飼育されていたものが野生化、繁殖したのだそうだ。
ここにいる2羽は人に慣れていて、触れそうなぐらい近づくことができた。これはこれで貴重な経験だ。
なお、渡り鳥の白鳥がこの北浦湖岸に初めて飛来したのは、1981年12月。当初は6羽だったが、ここでも地元の「白鳥を守る会」の保護活動により、毎年100羽前後が飛来するようになったという。
次回は、帰路で潮来の水郷や印旛沼なども見て回りながら、夕方に再び「白鳥の郷」を訪れようと思う。
(光石 達哉)